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ご覧いただきありがとうございます。
今回ご紹介する一冊は凪良ゆうさんの
「多類婚姻譚」です。
「どうしてこんなタイトルなんだろう」
久しぶりの新刊発表時に最初に思ったことでした。
素晴らしい作品だった『汝、星のごとく』、続編の『星を編む』から2年半ぶりの文芸書。やはりその2作品の余韻がまだ残っていて、その続きを期待したのかもしれません。
しかし、タイトルを見た時、今作は鋭い問いを突き付けられる気がしたんです。そして、今という時代を語る上で、避けて通れない1冊になるのではないかと感じたのです。
読み終えた今、その予感は当たっていました。第175回直木賞候補作になっていることにも、大いに納得させられました。
この記事では、できる限りネタバレを避けつつ、その魅力を解説していきます。
皆様の読むきっかけになれば嬉しく思います。
『多類婚姻譚』のあらすじ・概要
| 発売日 | 定価 | 出版社 | ページ数 |
| 2026/5/27 | 2090円 | 講談社 | 320P |
現代の結婚の難しさについて物語る。
セクシュアリティ、仕事に対する価値観、育ってきた環境など、人と人との間に生まれる複雑な違いを描いた連作短編集。その違いは時に摩擦となり、時に新しい時代を形作る価値観にもなっていきます。
1編目の「Thank you for your understanding」では、恋人の帰省した華の決意を家族はどう捉えたか。
4編目の「Position Talk」では、結婚を目前に律と朱里は性差を越えて、本当に分かり合って人生を歩んでいけるのか。
「結婚」という制度をフィルターにしながら、多様化する現代社会の価値観と、人間そのものの複雑さに深く切り込んだ作品です。
『多類婚姻譚』の魅力を解説
ここからは本書の魅力を深掘りして、
紹介いたします。
『多類婚姻譚』が描く「分かり合うこと」の難しさ
「そういえば、凪良ゆうさんの本にも出てきたけど…」と、日常の会話の中で引用したくなる1冊。
様々な価値観や考え方の違いを“多類”という言葉に込め、「現代の複雑さ」を表現した作品です。
同類であるのに”多類”であることが、こんなにも複雑なことなんだと実感します。その違いは見た目の問題ではなく、脳内。つまりは考え方や価値観という見えない部分です。見えない違いを分かり合うということが、いかに困難なことか痛感させられます。
「結婚とはこういうものだ」「男女とはこういうものだ」という型にはめるような考え方は通用しません。
『多類婚姻譚』というタイトルは、人間と人間ではない存在が結ばれる説話『異類婚姻譚』をもじったものです。最初は何か無理にもじったような気がしたんです。ところが、読んでみると、なかなか秀逸なタイトルであることが分かりました。
異類よりも多類の方が、かえってやっかいなんですよね。そこには「なぜ同じ人間なのに、分からないの?」という致命的な前提が存在するからです。将来的に、この時代の難しさを語る上でも、この作品を引用することになるかもしれません。
また、著者の『汝、星のごとく』、『星を編む』の後に刊行された本作ですが、これまでの作品とはまた違った角度から、現代の複雑さを鋭く描いていました。
読んでいる途中で、「一度読み終えよう。そして、もう一度振り返ってじっくり考えてみよう」と感じたくらいです。一度読んだだけでは、完全に咀嚼できるような気がしなかったのです。
これまでの凪良さんの作品はいつも「ままならない」人物が描かれています。それが、今作では現代版の集大成としてまとめたような作品です。
男女、恋人同士、人間同士が「分かり合う」ということはどういうことなのでしょうか。そういった問いを読後に残すような今作。ぜひ、あなたもこの問いに挑戦してください。
多様性の中に潜む矛盾
多様性にピシッと鞭を打つような1編目。この1編目により、『多類婚姻譚』が多様性を尊重する現代をただ表すだけではないことが分かります。
多様性のすべてを肯定しなければ、時代に置き去りにされてしまうのではないか。小説を読んでいても、そんな恐れのようなものを感じることがあります。ところが、凪良ゆうさんは1編目からちょっとした衝撃で多様性を表現しています。
さらに印象的なのは、「多様であることを盾にすべきでない」というメッセージも感じた点です。過去作を読んでいれば分かるのですが、凪良さんはその多様であることを十分に理解されている作家さんだと思います。
だからこそ凪良さんは、「多様」と「矛盾」が簡単に混同されてしまう危うさも理解しているのだと感じました。その上で、1編目のちょっとした衝撃の後、そこにあえて鞭を打って、『多類婚姻譚』は始まったのです。
『多様性のコレクション』を書きたかったのではなく、さらにその奥底へと踏み込んでいくような作品。そして、結婚というフィルターを通して見た世界は、こんなにもいびつで、嚙み合わせの悪いものかと。
愕然とした気持ちになる反面、「まぁそんなもんか」とも思ってしまうんですよね。そんな感想を持つことすらも、やはり、人は矛盾してしまう生き物だということです。
「多様性」や「自分らしい生き方」という項目をアップデートするように。
この物語を読んで、私はそんな通知を受け取ったような気がしました。
気の抜けない現代をどう生きるか
現代は、「すべてに反論できてしまう時代」だと感じました。
不用意な発言も練り上げた言葉も、どんな考え方や意見にも何かしらの反論ができてしまう。
例え、「分かるなぁ」と表面上で共感したとしても、その薄さはすぐに見透かされてしまう。「あなたに何が分かるの?」と根拠の提出を求められてしまうのです。特に、4編目の『Position Talk』は、そんな気の抜けない現代を表すような1話でした。
今の時代を生きる以上、価値観や考え方の“アップデート待ったなし”なのかもしれません。
作品を通して、自分の価値観が浮き彫りになる。人によっては、ヒステリックに感じるかもしれない。あるいは、喉元に刃を突き付けられるように、ドキッとしてしまう瞬間があるかもしれない。
脳内が二転三転させられ、様々な部分で摩擦が起きて発火してしまう。
「あぁ…なぜ神様は、そもそも男女という違いを作ったのか」
そんな嘆きのような心の声が漏れてしまう。この物語は結婚ということだけでなく、「すべてに反論できてしまう時代」をどう生きるのかを問うような物語でもあるように思います。
『多類婚姻譚』の感想
人間がこの世に誕生する時、神様は一つ仕掛けを作ったのかもしれません。
男女という違いを作り、互いに協力しながら発展させること。そして、その一方で矛盾するように、競い合わせることまで仕組んだのかもしれません。
まるで野球の試合のように、男が先攻で女が後攻なのか、あるいはその逆なのか。そうすることで、人間の考え方や価値観を磨き上げ、地球がより発展していくことを期待したのかもしれない。
ところが、試合は予想外の展開へ。「結婚って意味ある?」「男らしくとか、女らしくとかって何?」と、神様の想像を超えた域で膠着状態になっている。
そんなことまで想像してしまうような作品が、本書『多類婚姻譚』でした。
随所に考えさせられ、また浮かんできた考えでさえも正しいものなのか分からない。読んだ人の数だけ、まったく違う問いや答えが生まれていく作品なのだと思います。
結婚について思う人もいれば、仕事について考えた人もいる。生きにくい世界だと思った人も、ようやく生きやすくなったと感じる人もいるかもしれない。
結局のところ、本書が問いかけていたのは「結婚そのもの」ではなく、「この複雑な時代を、どう生きるのか」だったように思いました。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
凪良ゆうさんの『多類婚姻譚』はこちらからどうぞ。

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