【感想とおすすめポイント】スピノザの診察室/夏川草介

おすすめ本

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ご覧いただきありがとうございます。

今回ご紹介する一冊は夏川草介さんの
「スピノザの診察室」です。

2024年本屋大賞第4位にも輝きました。

夏川草介さんは医師であり、
『神様のカルテ』の作者でもあります。

この物語を読んだ時、不思議な感覚でした。

医療系の小説なのに『無力感』を感じて、
妙に現実味がありました。

京都の街並みやこの本の装丁等から感じる
穏やかな空気感との組み合わせも良し。

―不釣り合いでありながらベストマッチ―

みたいな不思議な魅力で、
印象に残っている1冊なんです。

では、なぜ『無力感』を感じたのかも含め、
おすすめポイントをご紹介します。

具体的なネタバレを避けながら
解説しますので、是非ご覧ください。

あらすじ

その男の医師としての力量は本物でした。

大学病院では数々の難手術を成功させ、
将来を嘱望されていました。

同僚で大学准教授の花垣はその力量に
心底、惚れ込んでいました

ところが、
その男は大学病院を去ったのです。

最愛の妹が若くしてこの世を去り、
残された甥の龍之介と暮らすため。

その男―主人公である雄町哲郎は、
京都の町中にある地域病院を選びました。

そこへ、花垣は愛弟子である南茉莉を
研修と称して送り込みました。

そこで目にするものは…。
哲郎が行う医療とは…。

無力感の正体とは

読み進めるごとに、所々で
『無力感』を感じるのはなぜか。

これには最愛の妹の死が
大きく関係しているのではと思います。

人の命を繋いできた哲郎が、
命の儚さも思い知らされたんです。

そんな大きな荷物を背負いながら、
医師としての想いを絶やさなかった。

無力感強い想いという相反するものを
同時に抱えているような感覚です。

つまり、哲郎の背景には人や命に対して
何度もせめぎ合った過去
があるのでは。

そう思うと、無力感というのは、
背景の1つであり、乗り越えたもの

その結果、無力感も強い想いも抱え、
程良く脱力したような境地なのだと思いました。

これが物語の心地よさにも
繋がっているのではないかと感じます。

どれだけ高度な手術を成功させても、
どれだけ論文を書いたとしても…

医療は完璧ではない。

人の命の前には唯一の神様なんていない。

人は命に無力である。
ただし、唯一立ち向かえる存在でもある。

どんな最期にも人の幸せはある。

それを信じて実践しているのが、
雄町哲郎という一人の医師であり人間。

というように、“生と死”“今どう生きるか”
ということを非常に考えさせられました。

哲郎の人の命に向き合う姿勢は、
壁を乗り越えた先にあった脱力感。

そんな自然体のような姿に
人は最期の明かりを灯すのです。

最前線の医療

妹の死を境に、大学病院を去り
甥の龍之介と生活することになった哲郎。

町中にある地域病院は、
最先端の病院とは言えないのでしょう。

それでも、医療の最前線であることは
間違いないのです。

そこには様々な人の最期があります。

劇的な何かが起こること
人生のエンディングではない。

きっと最期を迎えるまでの長い人生で
様々な出来事があったはずです。

そう思わせるようにそれぞれの
人生が染み出たような最期に出会います。

だからこそ、哲郎は、
どんな形でも最大限尊重する

この姿勢に医師としての
真髄を見たように思います。

最後に

温かな物語ではあるんですが、
それだけでは語り尽くせません。

医療であっても介護であっても、
人の最期に絶対的な答えはない

ただ、答えがないことに臆する必要もない

答えは医師が出すものでもなく、
神様に委ねるものでもない。

紛れもなく、自分なのだ。

そう言われているように感じました。

この本は続編やシリーズ化を
望まれるような素晴らしい1冊
です。

是非、手に取って読んでいただければと思います。

最後まで読んでくださり、
ありがとうございました。

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