【感想と魅力解説】『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ

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ご覧いただきありがとうございます。

今回ご紹介する一冊は瀬尾まいこさんの
「そして、バトンは渡された」です。

2019年の本屋大賞受賞作であり、この作品をきっかけに瀬尾まいこさんを知った方も多いのではないでしょうか。

一見すると、決して明るいテーマとは言えないこの物語。
しかし、読み進めるうちに、不思議と気持ちは前を向いていきます。

非常に複雑な感情を抱きながらも、その感情がどんどん前を向いていく。そして、読んでいて”フフッ”と笑ってしまうくらい、明るい気持ちに変わる瞬間がやってくる。

この感情の変化が瀬尾まいこさんの作品の良さなんだと感じます。

この記事では、できる限りネタバレを避けつつ、その魅力を解説していきます。

皆様の読むきっかけになれば嬉しく思います。

『そして、バトンは渡された』のあらすじ・概要

発売日定価出版社ページ数
2018/2/221650円文藝春秋372P

17歳の森宮優子の”森宮”は、水戸から数えて4番目の名字。

幼いころに母親を亡くしてから、父の海外赴任により優子は本来の家族から離れることとなりました。そこからは、17年で7回も家族の形態が変わり、父親は3人、母親は2人となる。

現在の父は20歳しか離れておらず、父親としてはどこかずれている。いや、良く考えるとこれまでの父や母も少しずつずれていたのかもしれない。

ただ、出逢ったどの家族からも溢れるほどに愛情を注がれてきました。名字が何度変わろうと、家族の形が何度変わろうと、この物語は決して不幸にならない。

『そして、バトンは渡された』の魅力を解説

ここからは本書の魅力を深掘りして、
紹介いたします。

どんな時も前を向く、愛のバトンを繋ぐ家族の物語

とにかくこの作品を読めば、不思議と前を向ける気持ちになります。

「17年間で7回も家族の形が変わった物語」と聞けば、普通なら悲しい物語を想像するのではないかと思います。

しかし、瀬尾まいこさんはそうは描かなかったのです。物語は常に太陽が照らすように、明るくあたたかさに満ちていました。物語の世界に入り込めば、日常のしんどさを忘れさせてくれる。本を閉じれば、自分が少し強くなったような感覚さえ残るのです。

確かに、物語に一切涙が流れないのかと言えば、そうではありません。そして、言葉にされていない物語の背景には、大変な苦労があったはずです。どれだけ想像を巡らせても、そのあたたかさが揺らぐことはありません。

物語の主人公である森宮優子が、何度でも、どんな時でも前を向いてくれる。その姿に読者は救われるはずです。そんな物語を生み出してくれた瀬尾まいこさんには、心から拍手を送りたいです。

そして、この作品を読んでいると、ふとスキマスイッチの『奏(かなで)』の一節を思い出しました。“君が大人になってくその季節が悲しい歌で溢れないように…”という歌詞です。

本書はまさに、家族をテーマにした物語が悲しみで溢れないようにという願いから生まれた物語なのかもしれません。

人物設定の巧みさが光る|森宮親子の生き方と強さ

作品全体の魅力を支えているのは、間違いなく登場人物たちの存在です。

主人公の森宮優子の前向きな姿は、とても17歳だとは思えません。境遇が違ったとしても、彼女の生き方や考え方には、思わずハッとさせられます。

彼女が元々前向きな性格だったかと言えば、そうとは思いません。これまでの経験によって自分なりに『どう生きるか』ということを考え続けたのだと思います。

特に印象的だと思ったのは、「変えられること」と「変えられないこと」の線引きの潔さです。この視点は、私たちが日常でつい見失いがちなものではないでしょうか。

人はどうしても、自分には変えられないことをどうにか変えたいと執着してしまうものです。優子にとってそれは、自分の境遇そのものでした。

実の親から離れるということは、世間的にはショックな出来事です。ただ、優子はその事実を受け止め、自分にできることに目を向け続けます。そんな彼女の姿は、単なる感動を越えて、読者に「自分を見つめ直す時間」を与えてくれるようでした。

そして、もう一人の重要人物が、現在の父である森宮壮介です。彼は、優子優子の前向きさを支え、さらに引き出していく存在です。「この親にしてこの子あり」と思わず言いたくなるような二人の関係性には、感動だけでなく、どこか安心感のようなものさえ覚えます。

二人の掛け合いはこの物語の生命線と言えるほど魅力的です。決して下を向かず、むしろ日々を楽しむように歩んでいくその姿は、読む人の心を救ってくれます。

壮介は、優子だけでなく、この作品そのものの魅力を支えるかけがえのない存在です。
もしこの人物の設定が少しでも違っていたなら、物語の色はガラッと変わっていたはずです。

だからこそ、瀬尾まいこさんの“人物設定の巧みさ”に感動し、この作品の根幹を支えているのだと感じました。

出来すぎた幸せの理由|登場人物が繋いだものとは

ただ、物語の全体図を見てみると、「感動的なお話でした」と単純に言っていいものかと考えてしまいます。それだけ、この物語の裏側には、描かれていない苦労や悲しみがあることを感じさせるのです。

実際に読みながら様々なことを考えてしまうんです。だからこそ、「少し出来すぎた設定なのではないか」と感じてしまう瞬間もあったほどです。

しかし、そこでふと思ったのです。

やはり、“人は潜在的に不幸な話を望んでいるのかもしれない”ということです。

優子に愛情を注いだのは、壮介だけではありません。彼女は多くの大人たちに支えられ、さまざまな形で愛情を受け取りながら育っていきます。親子だからという形式的な愛情というより、一人の子を本当に大切に育てようとする真っすぐな愛情です。

家族の形は変わったとしても、「優子の人生を支える」という軸だけは変わらなかった。ここにも実は、「変えられること」と「変えられないこと」の選択があったのだと思います。家族の形を変えてでも、優子を大切に育てるという強い想いは変えなかったのです。

そんな物語に「でも現実は…」と考えてみるのも、もちろん良いと思います。ただ、優子やその周りの人間のように、そのままポジティブに受け取ることも読者にとって魅力的な選択肢だと思います。

『そして、バトンは渡された』の感想

本書は3回読んだことがあるのですが、読み終えた時は毎回清々しい気持ちにさせてくれます。

いかにも「お涙頂戴」といった感動話とは違い、だからといって茶化すようなコミカルさでもない。物語のバランス感覚も瀬尾まいこさんの魅力の1つだと感じました。

また、瀬尾さんの家族に対する考え方も素敵だなと思います。

家族の形にこだわらず、それよりも愛情を注げる存在がいること。あるいは、愛情を注いでもらえることが、これがどれだけありがたいことかを教えてくれます。そして、人はそれさえあれば辛いことがあっても生きていけるんだと、強いメッセージを感じます。

瀬尾さんは2025年にも家族をテーマにした『ありか』を刊行されています。私は、本作を読む方には、ぜひ『ありか』も併せて読んでほしいと思っています。

『ありか』は、フィクションでありながら、ご自身の娘さんとの物語を描いたと言われています。だからこそ、両作品を読むことで、家族というものにどういった想いや考えがあるか。そして、どういった家族の物語を届けたいのかが、良く分かるようになります。

気になる方は、ぜひこちらの記事も参考にしてください。

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本書『そして、バトンを渡された』を読み終えた時、きっとあなたにとって大切な存在を思い浮かべるはずです。それは、血のつながった家族でなくてもいい。あなたにとって大切な存在であれば、それでいいのだと思います。

そんな当たり前で、かけがえのないことに気づかせてくれる一冊でした。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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