【感想と魅力解説】最新刊『グレタ・ニンプ』綿矢りさ

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ご覧いただきありがとうございます。

今回ご紹介する一冊は綿矢りささんの最新刊、
「グレタ・ニンプ」です。

印象的な装丁から、少しファンキーな物語を想像した方も多いと思います。ですが、その予想を軽々と飛び越え、破格のコメディ小説へと仕上がっているのです。

しかし、テーマは不妊治療です。テーマと小説の形式が相反するような気がしませんか?

それでも読み進めるうちに、この”反発”こそが物語の魅力であり、一人の妊婦が新しい自分に出会っていく過程を強烈に浮かび上がらせているのだと感じました。

本記事ではできる限りネタバレを避けつつ、『グレタ・ニンプ』の魅力を感想とともに紹介していきます。

皆様の読むきっかけになれば嬉しく思います。

『グレタ・ニンプ』のあらすじ・概要

発売日定価出版社ページ数
2026/1/271870円小学館336P

俊貴が仕事から帰宅すると、妻の由依が目を疑うような恰好で踊っていた。

「ヨウセイダーーーーッ!」と、喜びを爆発させる由依は、控えめで笑顔が素敵な女性だった、はずなのです…。

ところが、これ以降、豹変するかのように外見も内面も変わってしまいます。

髪型はデニス・ロッドマン。喋り方はドラゴンボールの悟空。

まさかの変わり様に俊貴は戸惑い、由依は突き進む。

4年間の不妊治療の末に、2人で生きていくと決意した夫婦の意外な人生の章が開幕する。

本書には『深夜のスパチュラ』も収録されています。

バレンタイン前日の奮闘を描いた作品もお楽しみください。

『グレタ・ニンプ』の魅力を解説

ここからは本書の魅力を深掘りして、
紹介いたします。

豪快で爽快な表現と驚きの仕掛け

綿矢りささんと言えば、多彩な表現力が魅力である作家さんです。どうしようもない感情や、もどかしい気持ちを絶妙に言い表してくれる多彩さがあります。

特に比喩を巧みに使い、独特な世界観を生み出します。その世界は繊細な人間の内面を表していて、綿矢さんの魅力の1つと言えます。

しかし、『グレタ・ニンプ』はそんな繊細さや多彩さよりも、直球で力強い表現に大きく舵を切った作品でした。他の作品を読んだことがある方ほど「これが綿矢りささんの作品?」と、驚く方もいるのではないでしょうか。

ただ、表現が豪快になったからといって雑になったわけではなく、1つ1つの言葉には、心の奥底から湧き上がってくる感情があります。綿矢さんらしさを感じる部分であり、振り切っても破綻することがないところは、素晴らしいなと思いました。

そして、もう一つ印象的なのは、ストレートな表現をより際立たせる仕掛けです。方法自体はとてもシンプルなのに、それが作品の色をより濃くしています。この仕掛けは、レビューでも書かれている方はいますが、ここはぜひネタバレなしで体験してほしい部分です。

『グレタ・ニンプ』は綿矢さんの本来の表現力の魅力に加えて、豪快さと爽快感を感じさせてくれる作品です。

破天荒な由依と冷静な俊貴のコントラストが光る

文章の魅力はもちろんですが、本書は登場人物の設定にも強い個性があります。主人公で妊婦の由依は、ただの個性というより、突き抜けるような破天荒さが印象的です。夫である俊貴とは登場シーンの時点で対照的でした。

『オッス!オラ、由依だ!』

『あっ、どうも。その夫の俊貴です。』

例えるなら、これくらいの差がある二人なんです。そして、その差が物語にくっきりとしたコントラストを出し、物語の世界観を引き立たせる役割も担います。

しかし、この物語において俊貴の存在は欠かせません。読者が置いていかれそうになる場面でも、俊貴が戸惑いながら状況を受け止め、由依の心情を一緒に考えてくれるからです。状況に戸惑いながらも、由依がただ我を忘れて暴走しているだけではないということを信じ続けるのです。

この優しさと前向きな捉え方で、物語の案内人として物語のバランスを取ってくれます。そして、『由依はなぜ変わってしまったのか』という物語の最大の焦点に迫っていきます。

この二人がたどり着く結末がどんなものなのか、ぜひ最後まで見届けてみてください。

不妊治療をコメディで描いた意味とは

一方で、不妊治療をテーマとした物語をコメディとして描くことに、不安や違和感を感じる方もいるかもしれません。

確かに、感じ方は人それぞれだという前提ですが、私はこの夫婦を通して本書が伝えたいことに、深く納得しました。振り切った表現方法だからこそ、伝わることがあったのかもしれません。

それは、由依の様子の変化を見ても感じます。最初は妊娠をきっかけに、彼女はまるで別人のように姿を変えていきます。ただ、「おかしくなった」や「マタニティハイになった」というのでは、十分な説明ではないなと思うんです。

それだけ、由依は変わってしまうわけなんですが、私は豹変よりも“羽化した”のだと思いました。生理的な現象というより、窮屈だった人生から抜け出し、自由を象徴する翼を手に入れた姿だったのです。

だからこそ、この物語は翼を得た自由さそのままに描かれるべきだったのだと思います。

不妊治療の苦しさはもちろん、彼女の人生にはこれまでにも窮屈さが積み重なっていたのでしょう。それが妊娠を機に一気に反転し、人生の舵を切った。新しい命と出会う前に、彼女は「新しい自分」と出会ったのです。

それは暴走でも、単なる変化でもありません。どこか神秘的だと感じるような姿だったのです。

その姿から放たれる言葉には力があり、不妊治療をしていても、妊婦になっても人生を楽しむ権利があること。自由に自分を表現して良いこと。そんなメッセージを全身で表現した作品なのです。

ちなみに、読み終えてから『妊娠したら、羽化したい』という綿矢さんのコメントを見つけ、「やはりそういうことですよね」と、すごく納得しました。

『グレタ・ニンプ』の感想

妻が妊娠した時に夫が『何もできない』と『何もしない』ということでは、まったく別物だなと思いました。

正直、私自身も『何もできないな』と感じたことはあります。ただし、自分なりにできることをした上で、“新しい命の誕生に圧倒された”という意味です。

本当に何もしないということは、新しい命の誕生を機に、自分だけ取り残されたかのようです。俊貴も『何もできないな』と思った一人かもしれません。

ですが、彼は夫としてお手本のような姿を見せてくれます。家事を完璧にこなすとか、気の利いた行動をするとか、そういう話ではありません。

由依の変わっていく姿をありのままに受け入れようと、自分自身も変わっていく姿勢です。そして、何が自分にとって、家族にとって大切なものかを考えていく姿勢です。

羽化したのは、由依だけではなかったのかもしれません。本書は女性だけでなく、男性も読んでみるべき1冊だと思います。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

綿矢りささんの『グレタ・ニンプ』はこちらからどうぞ。

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