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ご覧いただきありがとうございます。
今回ご紹介する一冊は朝井リョウさんの
「生殖記」です。
未だかつてこんな本を
読んだことがありません。
は?と、思わず心の声が漏れる序盤。
おぉ…と、感嘆の声が溢れる読後。
特別な読書体験を望む方に
ぴったりな1冊です。
語っている主はまさかの
アレですから。
問題作か傑作か、
あなたの目で見ていただきたい。
しかし、インパクトだけの本では
ありませんよ。
内容はずっしりとしているんです。
今の時点でかなり気になると思いますが、
さらに感想と魅力を語らせてください。
※できる限り具体的なネタバレを避けています。少しでも知りたくない方はご注意ください。
あらすじ
とある家電メーカー総務部勤務の尚成。
ある日、同僚と二個体で
新宿の量販店に来ています。
体組成計を買うため。
ーではなく、
寿命を効率よく消費するために。
誰目線で語られているんでしょうか。
ーヒトのオス個体に宿る◯◯目線?
かつてこんな小説があったでしょうか…。
未知の読書経験
仮に思いついたとしても、
実際に形にするには至らない。
そんなことが世の中には
眠っているんだと思います。
この小説はそんな発想を見事に
形にしてしまった本なんです。
本の語り手は言うなら“本能”
この本は“本能の視点”から見た、
『人の観察記』のようなものです。
これがとにかくおもしろい!
角張ったような表現が多いんですが、
真面目なフリしてどこかふざけている。
もう本能に“人格”と“個性”が
与えられているんです。
いや、それ以上。
“キャラクター化”していると言えます。
この視点とキャラクター化の成功により
かつてない読後感が味わえるのです。
なんちゅう本を読んでんねん…
みたいに笑えてきますよ。笑
テーマと設定の見事な化学反応
物語にコミカルさはあるんですが、
テーマは決してふざけていません。
この”本能視点”というのは
案外しっくりくるんです。
むしろ、語る資格のある
“選ばれし者”と思えてきます。
物語の掴みの時点では、
『何これ!?』という感覚ですが、
読み進めると、『なるほどなぁ』
と思うことが頻発していきます。
語られることはこの人間世界にある
違和感のようなものでしょうか。
これを主人公流、つまり“尚成流哲学”で
解明・解説されていくわけです。
それを破綻しそうなのに
『絶妙にコントロールする術』に
一本取られました。
テーマと設定の化学反応は
むしろ考え抜かれたものでした。
迷子にさせない案内上手
あえて、角張ったような
小難しい表現も出てくる本書。
ところが、読者が迷子にならないように
かなり工夫されていると感じます。
活躍するのは、
やはり、人格化した本能。
とにかく語り上手。
読者が途中離脱しないように
尚成の哲学を丁寧に解説していきます。
一度時間を置くと話が分からなくなる
という経験は読書には付き物です。
ところが、本書ではそれがほとんど
なかったなと思うんです。
これはかなり読者の思考を
繰り返し整理してくれている証拠。
つまり、この”本能”のエスコート能力が
素晴らしく、本書の名案内人なんです。
おかけで、この社会の理解に、
繋がったような読後感でした。
最後に
前作の『正欲』に続く、
インパクトのある作品でした。
自分の“世界の見方”を
変えてくれるような読書時間。
これがおもしろくて、
早くも次回作を期待してしまいます。
最後まで読んでくださり、
ありがとうございました。
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