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ご覧いただきありがとうございます。
今回ご紹介する一冊は伊与原新さんの「オオルリ流星群」です。
科学の視点を取り入れた短編集、『月まで三キロ』『八月の銀の雪』は伊与原新さんの代表作と言える人気の高い作品です。今回の『オオルリ流星群』はその2冊の短編集を経て、長編に取り組んだ作品です。
本書はタイトルの通り天文に関する題材です。“日常に科学の視点を取り入れた時、世界の姿は変わる”という伊与原作品の魅力が健在です。そして、今作は『大人の青春物語』という点でも、読者をワクワクさせてくれのです。
この記事では、できる限りネタバレを避けつつ、その魅力を解説していきます。
皆様の読むきっかけになれば嬉しく思います。
『オオルリ流星群』のあらすじ・概要
| 発売日 | 定価 | 出版社 | ページ数 |
| 2022/2/18 | 1760円 | KADOKAWA | 296P |
あの時のみんなが集まっている。
ここにいるはずだったあと一人をのぞいて…。
高校3年の夏に、久志たちは巨大タペストリーを作ることになりました。人生で最高の思い出の一つであり、その夏はもっとも“熱い”夏だったのです。
ところが、あることがきっかけで、青春時代はその夏に止まったのです。未だに明かされていない真相があの夏に取り残されている…。
あれから時を経て、タペストリー作りのメンバーであり、天文学者になった彗子の帰郷を耳に。そして、彗子が打ち明けたのは、『手作りの天文台を建てる』というタペストリー作りを超える壮大な計画でした。
その計画がきっかけで、あの夏に止まっていた青春が再び動き出す。そして、真相が明らかになった時、“もっとも熱い夏”が更新されるのです。
『オオルリ流星群』の魅力を解説
ここからは本書の魅力を深掘りして、
紹介いたします。
壮大な計画が動き出す「科学×大人の青春物語」
読み始めた瞬間から、気持ちが高ぶっていくのを感じました。
ただ、胸が高鳴る物語は世の中に山ほどあります。では、本書『オオルリ流星群』だからこそ味わえる魅力は何か。それは『科学×大人の青春物語』という掛け合わせにあります。
青春時代の熱い夏を過ごした仲間がいつの間にか地元に帰ってきている。その光景だけで、『何かが始まる』予感がしてきます。そして、その何かが『手作りの天文台を建てる』という壮大な計画であることが分かるのです。
その目的も、ただ天体観測がしたいだけではありません。天文学者になった彗子が語る内容は、まさに科学の途方もない世界です。正直、『理屈は分からんけど、すごいことしようとしてるよね?』という感覚で読んでいました。
思い出すのは巨大タペストリーを作ったあの夏。あの時の仲間は“さらに熱い夏”を求めたわけです。天文台は『秘密基地』であり、望遠鏡で見たいものは『あの夏の続き』なのだと。そんな想像とワクワクが広がる、“大人の青春物語”でした。
しかし、ただ熱い夏を再現したかっただけの物語なのか。中盤から終盤にかけて、物語の本当の姿が現れた時、天文台を建てるという計画の別の意味にも気づかされます。
伊与原新さんの作風とも繋がっていく部分であり、もう一つの魅力として解説していきます。
あの夏に残された謎と、ミステリ要素の魅力
伊与原新さんの作品には、どこかミステリアスな雰囲気が漂います。
それもそのはずで、伊与原さんは『お台場アイランドベイビー』で第30回横溝正史ミステリ大賞を受賞し、小説家デビューを果たした作家です。
つまり、出発点はミステリです。そして、科学とミステリは、仮説と検証を繰り返し、複雑だった事柄がを解き明かしていくという共通点があります。その相性の良さが発揮され、伊与原さんの物語には独特の奥行きが生まれているのです。
本書では、青春時代に落とされた影の正体が、常に引っ掛かりとして存在しています。そこが曖昧なままでは、本当の意味で天文台を完成しないのです。
タペストリー作りの仲間が集まったのも『本当にあの夏はあのままでよかったのか?』という問いかけそのものです。それぞれが“今抱えているもの”がありながら、それでも突き動かされる理由があるんです。
45歳という人生の折り返し地点を過ぎた時に、再び前に進んでいくための原動力は、体力でも気力でもありません。人生の中で曖昧なままにしていることを自分なりの形で明確にすることです。
名探偵にも、科学者にも解明できない、彼らの答え探しにも注目です。そして、本書をきっかけに自分の人生についても少し立ち止まって考えてみてください。
胸の高鳴りの正体は羨ましさ
本書を読む時の胸の高鳴りは、実は「羨ましさ」なのではないでしょうか。
10代や20代とは違い、大人になると様々に背負うものがあります。“ただまっすぐな想い”に突き動かされているわけにはいかない。
序盤から中盤にかけて描かれる久志の姿からは、そんな心の葛藤がにじみ出ています。やりたいことがあっても、そんなことより現実を見ろと言わんばかりの状況です。
30代、40代になれば、多くの人が一度は経験する、あるいは今まさに向き合っている感覚ではないでしょうか。
だからこそ、理屈ではなく、想いそのものに突き動かされていく姿が、眩しく、そして羨ましく映るのです。
そして私たちは、「新しいことを始めたい」と思っているようでいて、本当は、これまでの人生の中で曖昧なままにしてきたもの、やり残してきたものを、取り戻そうとしているのかもしれません。
人生の折り返し地点だとしても、まだ半分の地点です。その先の人生へ進むためにも、一度立ち止まり、自分が何を置き去りにしてきたのかを見つめ直すことは、きっと無駄ではありません。
そしてもう一度、自分なりの「人生の最高地点」を更新することに挑む。本書は、そんな静かな決意と覚悟を決める。そして、折り返し地点からの人生を、もう一度信じ直す物語でした。
『オオルリ流星群』の感想
伊与原新さんの作品は、短編集が魅力的だという印象を持っていました。
それは最初に読んだ『月まで三キロ』や直木賞候補作となった『八月の銀の雪』の影響でした。

『科学の視点と何を組み合わせるのか』という伊与原さんならではのパターンが興味深いんですよね。これが長編になった時にどうなるのだろうと思っていました。
短編集はどの話も秀逸ですが、これが長編になっても変わらなかったんです。短編で出力している物語の濃度が、長編になっても薄まることがない。
短編で「この話もう少し読みたいな」という思いを現実化したような長編です。むしろ、”あの夏”のことも”あの人物”のことも、もっともっと知りたかった。
それくらい、まだまだ“面白さの伸びしろ”を求めてしまうほど、楽しめる作品でした。
伊与原新さんの作品を読むなら、短編も長編もぜひ楽しんで読んでみてください。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
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