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ご覧いただきありがとうございます。
今回ご紹介する一冊は塩田武士さんの
「踊りつかれて」です。
第173回芥川賞・直木賞は両賞ともに「該当作なし」として衝撃を呼びました。本書は、その直木賞の候補作の一つとして注目を浴びました。
どの作品も賞に値しなかったのか、どの作品も甲乙つけがたかったのか…。しかし、読者にとっては賞はあくまでも“読むきっかけ”に過ぎません。
本書を実際に読んでみると、『今の時代にこそ読んでおくべき一冊』だと感じました。
この記事が、皆様の読むきっかけになれば嬉しく思います。できる限り具体的なネタバレを避けつつ、本書の魅力をお伝えしたいと思います。
あらすじ・概要
発売日 | 定価 | 出版社 | ページ数 |
2025/5/27 | 2420円 | 文藝春秋 | 480P |
ブログに突如書き込まれた『宣戦布告』
そこには83人の名前や年齢、住所、職場、学校など、あらゆる個人情報が晒されていました。
そこに名を連ねた83人は、SNSで誹謗中傷を繰り返す人間だったのです。
情報が晒された瞬間から、彼らの人生は次々と崩れ始め、ネットの世界で人間の悪意がどれほど簡単に現実を壊せるのかが描かれています。
お笑い芸人・天童ショージの死と、その周囲で繰り広げられたSNS誹謗中傷の嵐。彼の不倫報道から始まったこの騒動が、どのようにして『宣戦布告』を生み出すこととなったのか。
そして、かつて伝説の歌姫であった奥田美月も週刊誌のデタラメに踊らされ、人前から姿を消していました。
二人の人生と、『宣戦布告』に宿された意志を紐解く、現代に一石を投じる物語です。
本書の魅力を解説
ここからは本書の魅力を深掘りして、
紹介いたします。
SNS時代への鋭いまなざし
まず注目すべきなのは、序盤から中盤です。SNS時代を鋭く見つめる視線が展開される部分です。
匿名性や群集心理が暴走する世界に、正面から切り込むような”容赦ない筆致”に引き込まれます。
誰しもSNSの便利さに助けられる一方で、ふとしたときに「これって正しいのか?」と立ち止まる瞬間があるはずなんです。
本来、当事者が静かに向き合うはずの失敗や不幸が切り取られ、ネタとして拡散される。承認欲求に突き動かされ、都合の良い意見だけを「正しさ」と信じ込んでしまう。
そうした姿勢に異を唱えることすら、たちまち批判の的になる恐怖がある。
そういった現代に対する鬱憤を、“代弁するかのように”痛烈に書かれているのです。
物語の中の『宣戦布告』は、まさに今を生きる私たちにも突きつけられているのだと感じます。
だからこそ、この作品を通して、今の時代をどう生きるか考えるきっかけにしてはどうかと思うんです。
『宣戦布告』誕生の背景
中盤から終盤にかけては天童ショージと奥田美月の人生が紐解かれていきます。
それと同時に、『宣戦布告』が生み出された背景に思いを馳せることになります。
なぜ、83人の個人情報を晒したのか。その理由を語る上で、この部分は欠かせない部分です。
正直なところ、かなり詰め込まれた部分ではあります。結論までもう一息というより、一山超える必要があるんです。それだけ、著者の作品への強い思いを感じる部分とも言えます。
どんな人間にもその人なりの人生があり、他人には分からない重く、深いものなのです。
その中で失敗することだってあります。誰かを傷付けたり、決して許されるものではないものかもしれません。
だからといって、通りすがりの人が誹謗中傷していいわけではない。
もちろん、失敗した本人が「自分はそんな人間じゃないんだ」と、声を上げることも難しいものです。
そんな両者の間で、意を決して立ち上がった存在こそ、『宣戦布告』を生み出した人物なのです。
今の時代に必要なもの
今一度立ち止まって考えた時、鍵になるのは「人への興味」です。
物語を通じて見えてくるのは、感情の発散や、承認欲求に支配された無数の顔のない人々。
しかし一方で、天童ショージや奥田美月を「一人の人間」として見つめ、関わってきた人間のことも描かれます。
その人は、評価や評判に惑わされず、ただ目の前の人間に関心を寄せ、向き合ってきた。そこに生まれたのは、流されることのない、静かで強い絆でした。
物語が終盤に差し掛かる頃、現代に本当に必要とされている姿勢が、じわりと浮かび上がってきます。
そこにもう一人、鍵を握る人物の存在が、物語を動かしていきます。
こうして一人一人が立ち上がっていくことで、この物語が結末に向かっていくのです。
最後のページを閉じた後も心に残り続けるものがありました。それは、何かに流されたり、他人の声に惑わされたりせず、自分の目で世界を捉えるということの大切さです。
きっとあなたも読み終えた時、今必要だと思うことが浮き彫りになっているのではないかと思います。
本書の感想
この作品は読者にとって様々に意義のある1冊になると思います。
言えなかったことを「代弁してくれた」、と感じる人もいるでしょう。
違和感だったことを「言葉にしてくれた」、と受け取る人もいるはずです。
私にとっては、「これから、どういう姿勢で生きていくべきか」を考えさせられる一冊でした。
それは“立ち止まるな”ということなのです。
自分の頭で考え、自分の目で確かめ、自分の心で判断する。
SNSが悪いわけではありません。問題なのは、立ち止まり、流れにただ流されてしまうことです。
SNS時代に一石を投じながらも、“生きる姿勢”を問われたようにも感じた1冊でした。
この作品は読者の生活の中で、喉に引っかかった小骨のように作用していく1冊になると思います。
私自身もSNSなどを使いながらこの作品のことをふと思い返すことがあるんです。
少しでも気になった方は、ぜひ下記のリンクから『宣戦布告』の内容をチェックし、本書を読んでみてください。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
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