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ご覧いただきありがとうございます。
今回ご紹介する一冊は金原ひとみさんの
「ミーツ・ザ・ワールド」です。
集英社が“出版4賞”と位置付けている柴田錬三郎賞の第35回受賞作です。
ちなみに過去の受賞作には、
・伊坂幸太郎さん『逆ソクラテス』(2020年)
・朝井リョウさん『正欲』(2021年)
など、話題の作品が並びます。
また、2025年10月24日に映画が上映され、再び話題となりました。
「死にたいキャバ嬢」×「推したい腐女子」この二人の女性の組み合わせが、異彩を放つ作品です。
この記事では、できる限りネタバレを避けつつ、その魅力を解説していきます。
皆様の読むきっかけになれば嬉しく思います。
あらすじ・概要
| 発売日 | 定価 | 出版社 | ページ数 |
| 2022/1/5 | 1650円 | 集英社 | 240P |
新宿歌舞伎町で、人生二度目の合コン帰り、酔い潰れてしまった由嘉里。彼女は焼肉擬人化漫画をこよなく愛する腐女子でした。
酔いつぶれた由嘉里に声をかけたのは、美しいキャバ嬢・ライ。
出会って間もないのに、まるで運命に導かれるように二人は一緒に暮らし始めます。
本来なら決して交わるはずのない、まったく違う世界を生きてきた二人。
「仕事と趣味があるのに憂鬱なの? 」
「男で孤独が解消されると思ってんの?」
「恋愛に過度な幻想抱いてない?」
ライの言葉に由嘉里は「私は男の人と付き合ったことがないんです」と、自分の心の内を打ち明けていくのです。そして、由嘉里の世界はライのこの一言をきっかけに変わり始めます。
「私はこの世界から消えなきゃいけない」
異なる世界で生きてきた二人が交差し、予測できない物語が動き出すのです。
本書の魅力を解説
ここからは本書の魅力を深掘りして、
紹介いたします。
「誰も自分を分かってくれない」を言語化した小説
『誰も自分のことを分かってくれない』と思ったことはありませんか?
私は何度もあります。人生の中でどれだけ言葉を尽くしても、100%理解してくれることはないと思っています。悲観しているわけではなく、人間はそれだけ複雑な内面をしているということです。
作中の由嘉里やライも同じ気持ちだったのかもしれません。
しかし、著者はそういった繊細で複雑な内面をどんどん言葉にしていきます。内に秘めたまま、日常と切り離そうとするその気持ちを掬い上げていきます。
たとえ読者自身が由嘉里やライとは異なる世界で生きていても、彼らの物語を通じて「自分も分かってもらえるかもしれない」と感じられるのです。
そんな、「言葉ってすごい」「読書ってすごい」と改めて感じる瞬間が、この作品にはあります。
秘めた内面と向き合うー新しい世界の扉
自分とはまったく異なる、極端な価値観に出会った瞬間。なぜか人は、その奥にある”理由”を知りたくなってしまうものです
以前に『他人は自分の鏡』という話を聞いたことがあります。他者に対する感情や反応は、自分でも気づいていない内面を照らし出すという考え方です。
由嘉里にとってのライは、まさにその“鏡”でした。自分とは姿かたちの違うライを鏡にしながら、自分の心の深層に触れ続けていたのかもしれません。
そして、ライをこの世界に繋ぎとめていたいという強い気持ちが、自分の新しい世界の扉を開けることにもなったのです。
自分の秘めていた内面が、ライによって引き出されていくのです。そして、その状態は他の登場人物との関わりによって、さらに加速していきます。
まさに自分の内面を曝け出すことになるのです。ライの儚い存在を追っていた読者も、いつの間にか由嘉里の姿に魅せられていくのではないかと思います。
そうなると人間は強くなります。その強さは見せかけの強さではなく、自分の人生を堂々と歩んでいく力強さです。そんな心の成長に読者は心を奪われていくはずです。
金原ひとみの濃密な文章力
本作の魅力は、何よりも金原ひとみさんの圧倒的な文章力に支えられています。
1ページに言葉がぎっしりと詰まり、そのどれもが感情の揺れを伴って胸に迫ってくるのです。
『でも、〇〇だろうか』と、自問自答したかと思えば、周りの率直に問いをぶつける。自分の中での「普通はこうだろう」と自分の思い込みを口にし、返ってきた反応でまた思考が渦を巻き、言葉が溢れ出す。
つまり、頭の中で渦巻くものすべてが、そのまま文章として流れ込んでくるような感覚に陥るのです。
人は1日に約6万〜7万回、何かしら思考をしていると言われます。
そんな頭の中で考えていることや自分の内なる会話が、どんどん押し寄せてくるような感覚なのです。
そして、一つも取りこぼさないようにと、夢中に読まされたという読書体験でした。
本書の感想
初めて著者の作品を読ませていただきました。
読み始めてすぐ、一気に物語に引き込まれたのですが、同時に”追いつけないような感覚”にも襲われました。理解が追い付かないのではなく、むしろ一行たりとも取りこぼしたくないという気持ちが強くなった、という方が正確です。
そこで、急いで付箋を探し、最初から読み返すことにしました。
「良い文章だな」という以上に、感情を揺さぶられる不思議な力を持つ文章がいくつもあったからです。
そして、途中からは付箋を貼ることさえ忘れて、気付けば物語の結末でした。
金原ひとみさんの作品なら、うまく言葉にできない思いを言語化してくれる。読み終わった今はそんな確信があります。ぜひ皆さんも、そんな読書体験を味わってみてください。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
金原ひとみさんの『ミーツ・ザ・ワールド』はこちらからどうぞ。
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