【感想と魅力解説】『存在のすべてを』塩田武士

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ご覧いただきありがとうございます。

今回ご紹介する一冊は塩田武士さんの
「存在のすべてを」です。

本書が迫ったのは、事件の真相だけではありません。真相の奥には、誰にも語られることのなかったもう一つの物語が続いていたのです。

その物語を知った時、あなたは何を感じるでしょうか。事件の真相を追いながら、いつしか人間そのものと向き合っているような読書時間となっているはずです。

2024年本屋大賞第3位、第9回渡辺淳一文学賞受賞、そして2027年の映画化。その高い評価にも深く頷かされる。重厚で読み応えのある一冊でした。

この記事では、できる限りネタバレを避けつつ、その魅力を解説していきます。

皆様の読むきっかけになれば嬉しく思います。

『存在のすべてを』のあらすじ・概要

発売日定価出版社ページ数
2023/9/72000円朝日新聞出版472P

※単行本の情報です。

平成3年に誘拐事件が発生。

その誘拐事件はまさかの展開と結末を迎える。

当時、事件を追っていた新聞記者・門田は、30年後、ある刑事の死をきっかけに再び事件の真相を追い始める。

事件は、再取材が進むにつれて少しずつ輪郭を取り戻していく。

そして浮かび上がってきたのは、被害男児の”現在”と、一人の写実画家の存在だった。

30年という歳月の中で隠され続けてきた真実が、今、一枚の絵を描くように姿を現していく。

『存在のすべてを』の魅力を解説

ここからは本書の魅力を深掘りして、
紹介いたします。

パズルのように真実が浮かび上がる緻密で重厚な物語

本書は、400ページを超える長編であることに加え、内容も緻密な構成と重厚な物語です。

私は最近、ノートに要点や気になったこと、自分なりの考察を書きながら読書をしています。本書も同じように読み進めたのですが、数行読むたびにノートへ書き込んでいました。読み終えた頃には、A5ノート21ページがびっしりと文字で埋まっている状態でした。

それほど、本作の一つ一つの描写や会話が、パズルのピースのように感じられました。どこか一つでも欠ければ、物語の輪郭が変わってしまう。そんな感覚があったのです。

ただ、本書が緻密で重厚だと思ったのは、単にページ数や情報量が多いことが理由ではありません。物語の全貌近づくたびに、「なぜこうなってしまったのか」と、その背景を深く考えました。そして、「登場人物一人一人が抱えているものとは?」と、何度も問う時間だったのです。

そして、エンディングに向かっていく時には「自分はこの物語に最終的に何を思うのだろうか」と、正解のない問いに挑戦するような気持ちでもありました。

物語のピースがはまっていくごとに、まるで謎が深まるような考えさせられる1冊。ぜひ、濃密な読書時間を味わってみてください。

写実絵画が紡ぐもう一つの真実の物語

事実と真実は、必ずしも同じではありません。

私は、これまで何百冊と小説を読んできた中で、そう感じるようになりました。そして、本書では、そのことをより深く考えさせられたのです。

小説は事実だけでなく、その奥に隠されている真実も描くものだと思っています。それがフィクションであっても、ノンフィクションであってもです。

表面に見えている事実の裏には、誰にも知られることのない「真の物語」があります。私たちは、その隠された物語に目を向けることで、もう一つの世界を覗いているのかもしれません。

本書の物語もまた、30年という歳月を経て、ようやくその核心へと近づいていきます。

その鍵となるのが「写実絵画」でした。写実は人間や自然をありのままに描くということです。つまり、事実に忠実に描かれるものだということです。ところが、描き手の技量や想いによっては、そこに見たままの事実だけでなく、言葉にならなかった感情や失われた時間といった真の姿を引き出す力を宿すのです。

事実でありながら、物語の真実とも重なっていくところは、読んでいて唸った部分です。

そして、一つ一つの絵画が、当時の記憶を復元していきます。本書の写実絵画は記憶そのものであり、すべてを紐解く鍵となるのです。ここが、この物語のおもしろいところであり、塩田武士さんの真骨頂と言える部分だと感じました。

ぜひ、絵画を通して、読者自身もそこに描かれた光景をありありと想像してみてください。そして、表面に見えているものよりもさらに奥へ踏み込み、もう一つの物語に目を向けてみてください。

真実の先に見えてくる人間の姿

真実を見ることで、人間への理解が深まる。

生きていくには、目の前の事実を追うだけで十分なのかもしれません。わざわざ、その出来事の裏にある事情や、誰にも語られなかった物語にまで目を向ける必要はないのです。

ただ、それだけでは見えてこないものもあるはずです。

人がなぜその選択をしたのか。何を失い、何を守ろうとしたのか。

そういった背景に目を向けることで、世界の見え方は大きく変わります。善悪や正誤だけでは割り切れない、人間の複雑さが見えてくるのです。

それは、都合よくこじつけたり、正当化するのではなく、「人間」や「人生」という大きなものを理解することに役立ちます。そして、回りまわって自分という人間への理解にも繋がるものだと思います。

小説が描いているものは、まさにそういったことだと思うんです。日常の中で、あえて見ようとしていなかったことや、すぐには見えてこないことが、物語を通じて見えるようになる。

本書の物語も30年の時を経て、ようやく見えてくるものがありました。人の内面や出来事の背景は、そこに目を向けない限り見えてこないものです。そして、見ようとしても、真実は厳重に隠されているものです。

そこを著者との二人三脚で紐解いていく時間が、とにかく楽しいんですよね。そういったことを考えさせられる魅力ある1冊でした。ぜひ、じっくりと真実を追ってみてください。

『存在のすべてを』の感想

本書を読んで思うのは、二択で物事を捉えるのではなく、その間にあるものを理解したいということです。

本来、人間は善悪や正誤だけでは語れないと思っています。そこには複雑で曖昧な感情や想いがあり、むしろそうした部分があるからこそ、「人間らしさ」が表れるのではないかと思うのです。

そして、そんな人間らしさを言語化してくれる小説に、私は価値を感じています。もちろん、それが小説に限らず、映画や音楽、絵画で表現されていても良いのです。

そうした作品に触れることで、人間への理解が深まったり、自分だけの感覚が共有される。その瞬間には、何とも言えない心地よさがあります。

誘拐事件から始まった本書の物語は、事件の真相以上に人間の奥深さと向き合うことになりました。

人間の弱さや葛藤、そして言葉にならない想いにまで踏み込んでいくからこそ、物語にずっしりとした重みを感じたのです。その重みを噛みしめるような余韻が、本書の存在を強く印象づけました。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

塩田武士さんの『存在のすべてを』はこちらからどうぞ。

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