【感想と魅力解説】『おいしいごはんが食べられますように』高瀬隼子【第167回芥川賞受賞作】

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ご覧いただきありがとうございます。

今回ご紹介する一冊は高瀬隼子さんの
「おいしいごはんが食べられますように」です。

第167回(2022年上半期)芥川賞受賞作品です。

※できる限り具体的なネタバレを避け、本書の魅力を伝えたいと思います。

あらすじ・概要

発売日定価出版社
2022/3/241540円講談社
ページ数所要時間の目安
162P約2~3時間ほど
※平均的な目安

職場でそこそこうまくやっている二谷という男性。

そして、同僚であり対照的な二人の女性、芦川と押尾。

芦川は料理上手で皆が守りたくなる存、一方、押尾は仕事ができてがんばり屋。

この三人の物語は仕事に食べ物に、恋愛を織り交ぜつ展開。

そして、押尾の「二谷さん、わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」という提案に、不穏な足音を聞きつつ、始まる物語。

本書の魅力を解説

ここからは本書の魅力を深掘りして、
紹介いたします。

タイトルの解釈が一変する

読み進めていく度に、タイトルの表情が変わっていくのです。

最初は、温かくほっこりするような物語を想像するかもしれません。

思わず涙がこぼれるような、感動的な結末を期待する人もいるでしょう。

けれども、最初に想像した温度感や期待をすべてひっくり返すような展開が待っています。

その気配に気づくころには、もう引き返すことはできないでしょう。

最後の一行を読み終えたとき、あなたはタイトルの意味を問い直しているはずです。

『心がかき乱される』『もはやホラー小説』という声が上がるほど、静かに、しかし確実に読者の心をえぐる一冊です。

既視感のある人間の本性

物語には、無意識の偽善が静かに潜み、それを疎ましく思う心が複雑に渦巻いています。

時にそれは、弱き者と強き者との対立になることもあります。

職場という環境の中で、その悶々とした感情に、常に炙り続けられていくのです。

そこに来て押尾の「二谷さん、わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」という提案。

これが物語をより不穏な展開へ導く、きっかけになります。

『そんなこと言うなんて、嫌なやつだなぁ』と思う反面、どこかでその提案に期待してしまう自分がいる。

実は、無意識な偽善も、それを疎ましい気持ちも、自分の中に同時に潜んでいるのかもしれない。

そんな自分に気づきながら、物語はますます人間の本性に迫っていくような感覚に陥ります。

嫌悪感や憤り、嫉妬など様々な感情を物語や登場人物に抱く。

その一方で、それらの感情を引き起こす要素が自分の内にもあるのではないかと思うのです。

そんな様々な感情に、心はかき乱されていくことでしょう。

食に関する価値観

この物語には食に対する価値観がいくつか表現されています。

それは万人に理解されるような価値観ではないと思います。

ところが、私自身も『うわぁ…分かるなぁ…』と思わず感じ入った瞬間がありました。

そういえば、今までこの感覚が言語化されたことってあったのかなと、感心してしまいました。

この食に関する価値観は、上記の2つの魅力とも繋がります。

物語全体を通して、人間の本質部分に触れているんです。

それも見て見ぬふりをしてきた部分を容赦なく掘り返されたような感覚でした。

感想

本書は、多くの読者が抱いた“物語への期待や想像”を見事にひっくり返したような展開でした。

その裏切りっぷりが、残酷であり、最高に魅力的でもありました。

どの登場人物にも完全に共感できないかもしれません。

それなのに、物語を通してどこかに部分的に共感する方も意外と多いかもしれません。

共感というよりは『なぜか分かってしまう』という感じでしょうか。

人間が見せる”不敵な笑み”を見たようで、ぞくっとしてしまうような1冊。

ぜひ、手に取って、このなんとも言えない感覚を共有しましょう。

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