【感想と魅力解説】『雫』寺地はるな

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ご覧いただきありがとうございます。

今回ご紹介する一冊は寺地はるなさんの
「雫」です。

寺地さんの作品は『ほっと一息つきたい』という時に読みたくなります。日常の丁寧な描写に支えられた物語は、心地よく胸に響きます。

本書は、雨が降り始めた午後に、あえて“ふらっと散歩してみようかな”と思えるような不思議な感覚になりました。その背景には「繋がり」「再生」といった深いテーマがあります。

同級生4人の何気ない日常の中で、タイトルの意味や物語に込められた想いに触れてみてください。

この記事では、できる限りネタバレを避けつつ、その魅力を解説していきます。

皆様の読むきっかけになれば嬉しく思います。

『雫』のあらすじ・概要

発売日定価出版社ページ数
2024/11/61870円NHK出版288P

2025年の春にリフォームジュエリー会社『ジュエリータカミネ』は、営業終了。

店を立ち上げた高峰。デザイナーとして働いた永瀬。そして、中学時代の同級生である森と木下。4人はそれぞれの道を歩んでいくことになりました。

森は有名企業で上司のパワハラを受けて体調を崩す。

木下は地金職人として独立し、離島へ渡る。

それぞれに抱えるものも、進む道も違います。

そんな彼ら4人の繋がりは、1996年冬にさかのぼります。

中学卒業に向けて、レリーフづくりを行う際に、4人は同じ班になるのです。高峰能見は人気者、木下しずくは物静かと、それぞれが異なるタイプの4人。

その後、約30年間の縁となり、4人はティアドロップと呼ばれる雫型のモチーフを選ぶことになります。そんなティアドロップには「永遠」という意味があると美術教師から教わります。

あの日心に宿った「永遠」は、形を変えながらも受け継がれてきました。ジュエリーが姿を変えて愛され続けるように。

別々の道を歩むことになった4人の30年にわたる物語です。

『雫』の魅力を解説

ここからは本書の魅力を深掘りして、
紹介いたします。

5年ごとにさかのぼる構成の魅力

本書は5年ごとに過去にさかのぼっていく構成が特徴です。

過去を振り返る時、大きな出来事を思い浮かべる人が多いと思います。ただ、本書はそういった振り返り方ではないところがおもしろいと思いました。

大きな出来事だけを切り取り、振り返ったというよりも、ただ5年ごとに振り返ってみただけ。そこには、決して楽しいことだけではないけれど、大切な日々がある。そんな過去の描き方が自然だからこそ、物語の一つ一つに浸ることができます。

そして、5年ごとに振り返るたびに、冒頭の2025年のシーンには重みや深みが加わっていきます。

実家に眠っている古いアルバムをめくっていくような感覚。あるいは、不意にスマホに表示された昔の画像のように…。当時はただの通過点だった出来事が、今の自分を形づくっていることに気づかされます。

過去から現在までの30年を、穏やかな時間の流れとともにたどる。そんな心地よい読書体験でした。

固い繋がりとほどよい距離感が生む友情

4人の繋がりは、そもそも自然発生的なものでした。そして、お互いの糸がいつのまにか絡まり合う。緩い結び目ができて、解こうと思えば思うほどに固い結び目となる。

「それは運命だった」と言えば、ちょっとかっこ良すぎる。かと言って、お互いに誓い合ったような強固な繋がりというのも、しっくりこない。

もっともっと自然な繋がりがこの4人にはあって、それがこの物語の魅力の一つだと思います。

つまずきそうになった時には、ちょうど良い支えになる。けれども、依存するわけでも恋愛感情が生まれるわけでもない。だからこそ、お互いが別々の道を生きていくことにだって、躊躇するわけではありません。

それぞれが進むべき方向を変えても、必ずどこかで道は交差するんだと確信しているようです。過去ではなく、未来を5年ごとに覗いたとしても、きっと4人の姿があるはずです。

“固い結び目”“ほど良い距離感”で、お互いの人生を見守り続けていく。そんな未来を想像しながら、ほっとするような温かさに包まれました。

再生の物語を象徴する人物

本書の4人の登場人物は、一見すると「なぜその4人が繋がったのか」と思うほど、それぞれタイプが違います。だからこそ、気になる人物を軸に物語を読み進めるのもおすすめです。

私が特に印象に残った人物は、木下しずくです。彼女は物静かで、周りと距離を置くタイプです。登場人物の中でも、特に周りから心配される人物なんです。

私は「このタイプの人間は、ある日突然思い切った行動をするものだ」というイメージがありました。だからこそ、一番気になる人物だったのです。

そのイメージの通り、木下しずくは周囲が驚くような決断を下しています。物語はその決断についてもさかのぼりながら掘り下げていきます。

直接的なきっかけはあるのですが、それ以上に常に3人の同級生の支えが影響したことは言うまでもありません。しかし、一番大事なのは自分の内に抱えた感情とどう向き合うかという姿勢です。どう磨き、どういった形に変えていくかということだと思います。

悲しさや悔しさも、見方を変えれば自分を変える“素材”になる。その素材を磨き、形にしていくことで、人は自分の核を強くしていくのかもしれません。

それができる人間は、ある日思い切った行動や決断を下すのだと思います。

彼女は地金職人として身に着けた術と同級生の支えの中で、自分の生き方を見出したのです。それは新しい自分へと再生するということでもあります。

だらこそ、涙を流したとしても、それは巡り巡って自分の強さになる。雨が降れば、自分の生きている世界は潤い、もっと生きやすくなる。一人の人物を通して、そんな想いを受け取った作品でした。

『雫』の感想

ミステリなどで読み進めていくうちに最初のシーンや出来事の意味がまったく変わるということはありますよね。気付かなかった重要な要素を発見していく度に真相に近づく…。

そんなことが本書のような物語でも起こります。読み終えた時に、最初に感じたこととのギャップや物語自体の捉え方が変わります。

そのギャップには、驚きだけでなく「あの一言はもっと重い一言だったんだ…」というように、ある意味後悔することになります

でも、その後悔の正体は「また読みたいな」という意欲的なものなんですよね。

本書『雫』を読み終えた後には、この“意欲的な後悔”がありました。

だからこそ、最初のページに戻り、すぐに第1章を読み返しました。その後、さらに最終章へ戻り、いつまでも終わりがないような錯覚に陥るところでした。まさに、本書の雫が意味する永遠(循環)を思わせるような構成で、最後には唸るように本を閉じました。

ぜひ、本書を手に取って、時を自由に超えながら、この物語を堪能してください。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

寺地はるなさんの『雫』はこちらからどうぞ。

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