※当ページのリンクには広告が含まれています。
ご覧いただきありがとうございます。
今回ご紹介する一冊は綿矢りささんの
「蹴りたい背中」です。
当時19歳で芥川賞を受賞し、大きな話題となったことを覚えている方も多いと思います。
私はそのころ、気になりながらも手に取りませんでした。そこに特別な思いや考えがあったわけではなく、ただ読む機会を逃していたのです。
しかし、著者のとある1冊の作品がきっかけに、「蹴りたい背中が読みたい!」という衝動のような気持ちが突如沸き上がりました。
私は、この衝動のような気持ちを受けて、「一度気になった本は、心の本棚にいつまでも存在しているんだな」と思いました。後は、手に取るタイミングがいつか来る。そのタイミングだけは絶対に逃すべきではないと感じています。
既に読んだ方は多いかもしれませんが、実は私と同じように読むタイミングを逃した方の読むきっかけになれば嬉しく思います。
この記事では、できる限りネタバレを避けつつ、その魅力を解説していますので、ぜひご覧ください。
※記事の最後では、「心の本棚」という読書の考え方について書いた記事も紹介しています。こちらもぜひご覧ください。
『蹴りたい背中』のあらすじ・概要
| 発売日 | 定価 | 出版社 | ページ数 |
| 2003/8/26 | 1100円 | 河出書房新社 | 140P |
高校1年生のハツと呼ばれる長谷川初実とにな川はクラスになじめない二人でした。
そんな二人が接点を持つきっかけとなったのが、人気モデルのオリチャンです。
にな川はオリチャンの熱狂的なファンであり、ハツは偶然にもオリチャンに会ったことがありました。
その出来事をきっかけに、オリチャンという共通点を通じて二人は、引き寄せられるように距離を近づけていきます。
そんな二人の不思議な関係は、周りが思うような恋愛感情なのか、それとももっと計り知れないものなのか…
クラスの余り者である二人の世界に、読者もまた引き込まれていきます。
『蹴りたい背中』の魅力を解説
ここからは本書の魅力を深掘りして、
紹介いたします。
圧倒的な表現力|綿矢りさの比喩のパレット
本書の魅力で欠かせないのは、綿矢りささんの圧倒的な表現力です。
特に比喩表現の引き出しの多さには驚かされます。比喩の量が多いというだけではなく、まさにグラデーションのように多彩なのです。頭の中のイメージがパレットの上で、調色されていくように、出したい色が絶妙に調整されていくようです。
だからこそ、人間の繊細で複雑な感情がよく表現されているなと驚かされます。一方で、すべての表現に納得するわけではありません。中には「どういうこと!?」と、自分の中で想像できないような感覚が表現されていることだってあります。
その引っ掛かりが、またおもしろいところです。人間の繊細さや複雑さを理解することが、決して簡単ではないということを痛感する瞬間でもあります。
また、表現力の豊かさは、著者の個性が出るということでもあります。その個性こそが作品の魅力を形作っているのだと思います。
「赤」や「青」といった単色では言い表せない感情の色が、物語の世界と登場人物の内面を鮮やかに浮かび上がらせていきます。
そして、それが一番集約されているものが、タイトルの『蹴りたい背中』だと感じました。ぜひ、綿矢りささんの一つ一つの表現を楽しみながら、タイトルに込められた感覚を考えてみてください。
『蹴りたい背中』の世界観
「答えをください!」
と、思わず言いたくなるように、綿矢りささんは言葉で表現しきれないような世界を物語として描いてくれます。例えば、多感な時期に芽生える未熟な感情だったり、言葉にすることができない心の奥底にある感覚だったりします。
本書では、特に蜷川(にながわ)と、ハツと呼ばれる長谷川初実の関係性にも注目です。この二人の関係こそ、答えがほしくなる読者は多いはずです。
よくある「これは友情なのか、恋愛感情なのか」といった揺れ動く心とも何か違う気がする。ぐっと近づいたように感じたのに、次のページでは嘘みたいになかったことになる。そんな不思議な距離感が、この物語の繊細さや独特な世界を象徴しています。
さらには、にな川の人気モデル・オリチャンへの執着とも言えるような熱狂度も読みどころです。昔で言えばオタク、今なら推し活でしょうか。ただ、その熱狂度ですらも、オタクや推し活という言葉には収まらないように感じるのです。
二人の関係性も、オリチャンへの想いも、素直に理解されるものではないはずです。本書は“答えのない世界”を表しているのかもしれません。
つい答えを求めてしまいがちですが、自分なりの解釈を楽しめる1冊だと思います。
「この世界に生きてたって誰にも理解なんてされない」
そんな感覚を抱いたことがある方には、ぜひ本書、そして綿矢りささんの作品を読んでみてほしいと思います。
世界から浮いた存在
物語は、クラスの「余り者」とされる二人の関わりによって展開していきます。
「余り者」という言い方は心苦しいのですが、つまりは周りとは違った感性を持つ人間だということです。綿矢さんはこうした少し浮いた存在を描くのが、すごく上手いなと思います。
それぞれが持つ独自の思考や世界観を知れば知るほど、登場人物の魅力に惹き込まれます。もしこれが現実であればどうでしょうか。
「周りとは違う」ということは、興味よりもむしろ恐れを生むことの方が多いのではないでしょうか。関わることで、自分自身も「余り者」となってしまう…。そんな不安を感じてしまうのは当然のことです。
そして、その恐れが自分の世界を狭めてしまっていることに、人は気づかないものです。むしろ、気づかないように視野を絞って、群れの中で隠れているとも言えます。
しかし、ハツとにな川は、その恐れに決して屈することがありません。だからこそ、二人はこの物語の中で強い存在感を放ちます。周囲から見れば異質ですが、二人から見れば、世界もまた異質に感じるはずです。
本書は表現力に注目するだけでなく、人間の本質を考えさせられる1冊でもあります。
『蹴りたい背中』の感想
2003年に刊行されてから20年以上の経った今、改めて紹介するまでもない1冊だと思います。
それほど、当時話題となり、綿矢りささんを語るには必須の作品です。
私は著者の『勝手にふるえてろ』を読み、綿矢りささんの作品に衝撃を受けました。その時に、原点とも言える本書を衝動的に読んでみたいと思ったのです。

そこには確信がありました。『蹴りたい背中』は、ただ注目の高さから話題になっただけではない。綿矢さんの表現力や言語化力あるいは独特な世界観を作るセンスに、芥川賞の選考委員はもちろん、多くの読者が魅了されたはずだと。
そもそも、タイトルにある背中とは、本来抱きしめたくなったり、守りたくなるようなものではないかと思うんです。しかし、綿矢りさんはそんな背中に奥底から湧いてくる衝動的な気持ちをぶつけるのです。
それは、怒りとか悲しみといった分かりやすい単色の感情ではありません。整っていない複雑な色合いなんです。そんなどうしようもない感情を表現した上で、『孤独』や『人間の本質』といったものが独特な世界観で描かれたのが本書だと思います。
読み終えてからも、もっと綿矢りささんの描く世界を覗いてみたい。頭の中がどうなっているのか覗きたい。そういう作家としての魅力に溢れた方だなと思いました。
ぜひ、綿矢りささんの原点とも言える本書を手に取ってみてください。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
綿矢りささんの『蹴りたい背中』はこちらからどうぞ。
■単行本はこちら
■文庫版(ペーパーバック)はこちら
そして、「心の本棚」という考えについて、noteで詳しく書きましたので、ぜひこちらもご覧ください。


コメント