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ご覧いただきありがとうございます。
今回ご紹介する一冊は伊与原新さんの
「宙わたる教室」です。
本書は、大阪にある定時制高校の科学部が発表した研究に着想を得て書かれたそうです。実際に調べてみると、研究内容や発表について知ることもできます。
実話をもとに、静かな感動だけでなく、胸を熱くするドラマへと描いた心動かされる1冊。
実際にドラマ化されるなど、多くの方の支持を集めた作品です。
この記事では、できる限りネタバレを避けつつ、その魅力を解説していきます。
皆様の読むきっかけになれば嬉しく思います。
『宙わたる教室』のあらすじ・概要
| 発売日 | 定価 | 出版社 | ページ数 |
| 2023/10/20 | 1760円 | 文藝春秋 | 288P |
年齢も抱えている事情も違う人たちが集う、東京・新宿にある定時制高校。
そこに赴任している理科教師の藤竹には、ある思惑がありました。
それは、科学部を作り、学会で発表すること。そして、それ以上に秘めたる想いを胸に抱いていたのです。
そんな中、金髪で素行が良いとは言えない21歳の岳人を皮切りに、科学部にメンバーが集っていきます。
子ども時代に学校に通えなかったアンジェラ。
起立性調節障害で不登校になっていた佳純。
さらには、最年長70代の長嶺。
様々な背景を持つ彼らが目指すのは、「火星のクレーターの再現」。
学校の一室に火星を作り出そうとする彼らの挑戦は、やがて大きなうねりとなり、読者の心を熱く揺さぶります。
『宙わたる教室』の魅力を解説
ここからは本書の魅力を深掘りして、
紹介いたします。
王道の感動物語×科学が生む心を打つストーリー
本書は、シンプルに言えば“感動物語”です。物語の筋書きはおおよそ想像がつくようなド直球の王道ストーリーと言えます。そんな物語は、数えきれないほど生まれてきました。
ところが、伊与原新さんの物語は特徴的で、そんな感動物語にも科学をテーマとして取り上げています。言い換えれば、多くの読者にとっては情報量が少ない分野です。
その分、物語にはどうしても説明が必要な場面が増え、小難しい印象になりがちです。そして説明が重なれば重なるほど、感動とは少しずつ距離が生まれてしまうはずです。
ところが、本書はそんなことを感じさせないバランスの良さと、それ以上に好奇心を刺激させられるワクワク感すらあります。
確かにゴール地点は、誰もが想像できるものです。しかし、ゴールまでの道のりは、読者の想像を超え、決してありきたりなものではありません。
物語は寄り道をすればするほど、著者の独特な世界観に魅了されていきます。伊与原さんの寄り道は、はるか遠くの宇宙にまで届き、読者の想像以上の世界の神秘が次々と表現されていきます。
そして、本書の特徴は、定時制高校という舞台で、様々な個性ある人物を登場させたことです。年齢も世代も異なる1人1人の個性も物語の寄り道を作り出す要素です。それぞれが独自の個性を放つことで、物語はどんどん表情を変えました。
“物語の広がり”と“一人一人の個性”が掛け合わさった時、学校という舞台は大きな感動の舞台へと姿を変えていきます。物語にのめり込んでいくうちに、彼らが目指したものなら、どんなゴールだって良い。それくらい心が動かされ、いつしか彼らと心を1つにして結末を迎えます。
知りたいという欲求が人を動かす
本書は、人がいかに“知る”ということを求めているのかが分かります。
あらすじの通り、火星のクレーターを再現するという実験を行います。その実験は、学校で経験したことのある実験とはレベルが違う本格的なものでした。
それと同時に、十分な知識もなければ、最新の実験器具や資金もありません。そんな中で、最も頼りになるのは個々のアイデアと熱量です。
一人一人の個性と長所を生かし、不足しているものを感じさせない活躍は、物語を盛り上げてくれるのです。
そして、学校の一室に火星を作り出すというには、まるでミニチュアの世界です。
正直なところ、専門的なことを完全には理解しきれませんでした。それでも、とにかく読者が理解できるように、非常に配慮されて書かれていると思いました。
その証拠に、分からないことが出てきたとしても、結末に向けての流れには問題ありませんでした。むしろ、物語を破綻させないように、丁寧に書かれています。
きっと物語の中の彼らも分からないことだらけの未知の領域だったはずです。それでも突き動かされたのは、心の底に眠っていた“知りたいという欲求”だと思うのです。
読み進めるほどにどんどん高まっていく科学部の熱量。分からないことを知りたいと思う気持ちは、これほどまでに人を動かすのか。そして、これほどに人を変えたり、繋がっていくのかと、彼らの姿に夢中になって読みました。
伊与原新が描く人生が動き出す瞬間
人を突き動かすものは、いつか不意に現れるものなのかもしれません。
それは好きなことというだけではありません。自分の奥底に眠っている“欲求”に訴えかけるような”何か”だと思うのです。
その出会いは、これまでとはまるで違う自分との出会いだと思います。今の姿がどうであれ、本来の自分の姿に気づいた瞬間、目の前の世界は見え方が一変するはずです。
この物語の主人公である岳人は科学との出会いにより、大きく変わることになります。そして、本来の姿を取り戻した彼は、もう周りに流される人間ではなくなります。
物語を終えた後も、自分の姿をもっと磨いていくに違いありません。そして、誰かの憧れになり、今度は誰かの人生を変えるきっかけになるのではないか。そんな想像までしたくなりました。
本記事の1つ目の魅力として取り上げた、物語の寄り道はそのまま人生にも当てはまることだと思います。どんな寄り道をしたって、スタート地点が他の人と違っても、目指す山頂には無数のルートがあります。
定時制の学校に通っていようと、年齢がいくつだろうと、山頂へ続く道の単なるスタート地点の一つなだけです。伊与原新さんは科学を取り上げるだけでなく、こういった背中を押してくれる物語を書いてくれます。
それを単なる温かな物語に収めるのではなく、科学という題材によって証明してくれているような気がします。人生もただひたすらに実験を繰り返し、いくつもの失敗を積み重ねる。その先に見えたものを誰になんと言われようと、自分の中で誇れば良い。そんな気持ちにさせてくれる1冊でした。
『宙わたる教室』の感想
これまで読んできた著者の作品の中で、好きな作品をいくつか挙げるなら『オオルリ流星群』は外せません。読み始めてから最後まで、とにかく気持ちが高揚し、登場人物たちと心を一つにした読書時間でした。

今作の『宙わたる教室』も並ぶか、あるいは上回るくらい感動を味わった作品です。
2つの作品に共通するのは、挑戦するタイミングに早いも遅いもないということです。特に年齢は関係なく、挑戦したいという意欲があれば十分なのです。
そこから先に求められるのは、「行動」と「柔軟な考え」です。やってみることで、分かることがあり、分かることがあるから別の考えが浮かぶ。
とにかく、実験と検証を繰り返すことの大切さを改めて教えてくれます。
今の時代は、どんなに優れたアイデアや考えもAIに奪い取られる可能性を感じます。しかし、実際に実験や検証を行うということは、データに表れないことが見えてくるのです。そして、予想外の出来事も起きるものです。
そこに、ドラマがあり、やりがいがある。そう感じさせてくれたのも本書でした。感動を味わうだけでなく、今の時代に読んでおきたい1冊としておすすめです。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
伊与原新さんの『宙わたる教室』はこちらからどうぞ。

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