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ご覧いただきありがとうございます。
今回ご紹介する一冊は綿矢りささんの
「勝手にふるえてろ」です。
本書は恋愛小説でありながら、”甘さ”や”熱さ”ではなく、揺れ動く気持ちに心を奪われる作品です。そして、揺れ動く気持ちは、時に暴走していくのです。
2017年には映画化され、この暴走具合をハイテンションで演じた主演・松岡茉優さんにも注目が集まりました。
本書は、主人公の複雑な内面が圧倒的な筆力で描かれた作品です。その筆力は衝撃的で、目が離せない小説作家として刻まれるはずです。
この記事では、できる限りネタバレを避けつつ、本書の魅力を解説していきます。
皆様の読むきっかけになれば嬉しく思います。
『勝手にふるえてろ』のあらすじ・概要
| 発売日 | 定価 | 出版社 | ページ数 |
| 2010/8/27 | 1376円 | 文藝春秋 | 168P |
※単行本の情報です。
中学生時代の片思い以外に恋愛経験はなし。
そんな26歳の江藤良香の目の前に、自分を求めてくれる男が現れる。
しかし、良香は理想の片思いの相手を忘れられず、再会を果たす。
“理想の彼”と”現実の彼”の間で、揺れる動く心は暴走していく。
“ずっと想い続けたもの”と“熱烈に求めてくれる存在”という恋の2択が、江藤良香を目覚めさせていく物語です。
『勝手にふるえてろ』の魅力を解説
ここからは本書の魅力を深掘りして、
紹介いたします。
恋愛小説の舞台で暴走する主人公
本書は単なる恋愛小説ではありません。恋愛小説という舞台を使いながら、主人公の思考と感情が暴れ回るような、強烈な読書体験ができる1冊です。
もちろん、破綻しているという意味ではありません。主人公・良香の自分の世界を突っ走るスタイルに、巻き込まれていくような感覚でした。
本書の感想でよく“こじらせる”という言葉が出てきます。まさにその通りで、「なぜあなたはそんなにも複雑に考えてしまうのか」と、良香の思考に振り回されることになります。
それが冒頭のシーンから表現されています。「あれ?この小説大丈夫だろうか?」と思わせるような、癖のある物語の開幕に一気に高揚します。
「なるほど、綿矢りささん衝撃的だな」と、最初から白旗を上げるような気持ちになる。そして、『もうなんでも来い』という感じで、癖の強い主人公にとことん付き合う覚悟をするような序盤のシーンはぜひ楽しみに読んでください。
物語は、序盤から少し進むと、なぜか二人の男性を吟味する時間が始まるのです。しかし、主人公・良香は、客観的に見てそんな立場ではないのです。そんな矛盾もありながら、物語をこじらせていく姿に、不思議と魅力が沸いていきます。
読み終えてなお、『これって恋愛小説だったよね?』と、自分の中で自問自答するような衝撃が走る1冊でした。
そして、読んでいて衝撃的だったのは物語の内容以前に、綿矢りささんの文章力や表現力です。
綿矢りさの文章表現のすごさとは?
比喩的な表現が豊かで、作品の独自の世界観や魅力がよく表現されています。
単純に語彙力が多いといったテクニカルな要素ではなく、あくまでも“独特のイメージを伝える手段”として効果的だということです。
どこか上の空という感じで、語られていくこともあるし、突然熱を帯びた文章に感じることもある。放り込むような雑さがあったり、投げつけるような冷たさを感じることもあります。
そういった一つ一つの文章が、思い込みが強かったり、ひねくれたり、不貞腐れたような主人公の姿と重なるのです。表現力の多彩さは、“小さな衝撃の積み重ね”で、強烈に惹かれました。
良香の複雑な頭の中が次々に言葉に置き換えられていく。それに対して、登場人物は翻弄されるどころか、強さやしなやかさを持った個性的人物として描かれています。
だからこそ、良香はその文章力と周りの人物に支えられ、どんどんこじらせていけるのです。特にそれを象徴するような“大嘘をつくシーン”があるんです。思わず苦笑いしつつも、物語の印象を強くしたシーンでもありました。
そして、恋愛の結末と良香の人生の行く末がどう決着を迎えるのか。綿矢りささんがどのように描き切るのかも、本作の大きな読みどころです。
「こじらせ思考」は弱さではない
本書を読んで、世界を斜めから見る感覚は持っておきたいなと思いました。
「こじらせる」という言葉は、ともすれば「面倒な人」というイメージにも繋がります。確かに物事は、シンプルに考えたいものですよね。
ただ、時には世界を斜めから見てみることや、一度批判的に見てみることも重要ではないでしょうか。
これは「シンプルに考えれば良い」という人からすると、すごく遠回りな思考なはずです。しかし、『急がば回れ』でもあります。
主人公である良香は、ただ物事をこじらせているわけではありません。素直に落ち込んだり、怒ったりすることもあります。だからこそ、“複数の視点を持っている人間”なんだと感じたのです。
これは誰でもできることではないはずです。それだけ一つ一つのことをよく考え、納得できる選択肢を探求しているということです。それは、妥協で決めた後に襲われる、“どうしようもない後悔”に苦しまないように、先回りして考えることとも言えます。
そういった“別角度の視点”も育てることが、大事なのではないか。それが、予測不可能な世界を生きていく力になるのではないかと、本書を通じて考えたのです。
だからこそ、恋愛小説の枠が窮屈に感じるほど、綿矢りささんの作品に衝撃を受けました。震えたのは登場人物ではなく、私自身だったのかもしれません。
『勝手にふるえてろ』の感想
綿矢りささんと言えば、当時19歳で芥川賞を受賞した『蹴りたい背中』が一番記憶にあります。
とは言うものの、当時話題になった時に、その話題に乗り切れずに読めていませんでした。
そんな記憶をふと思い出し、手に取ったのが本書『勝手にふるえてろ』でした。そして、本書を読んだことをきっかけに、『これから綿矢りささんの本を読もう』『次は蹴りたい背中を読みたい』と思い、買いました。
一度、自分の中で気になった本というのは、何年、年十年経ってからでも舞い戻ってくるものなんだなと驚きです。当時、気になっていた本が今さらながら手元に来たというのは、おもしろいものです。
本作は片思いの相手に再会することで、物語が展開される内容でしたが、どこか似ています。心に一度引っ掛かったものは、何年経っても痕跡が残っているものです。
その引っ掛かりを遠回りでも、自分なりに解決することで、また新たな道が開けるはずです。もし本書が少しでも気になった方は、きっとどこかのタイミングで読むことになると思います。
だからこそ、ぜひ、気になった今のタイミングで手に取ってみてください。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
綿矢りささんの『勝手にふるえてろ』はこちらからどうぞ。
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