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ご覧いただきありがとうございます。
今回ご紹介する一冊は湊かなえさんの「暁星」です。
2025年2作目はAmazonが提供するAudible(オーディブル)の書き下ろし作品として先行して配信されました。声優陣などの概要も下記で解説いたします。
本作の最大の驚きは、日本あるいは世界に衝撃が走った、“とある大きな事件”を想起させることです。著者自身、宗教に関わる方や宗教二世の方などについて描きたいという思いから、執筆に繋がった作品です。
テーマだけでなく、物語の構成のおもしろさや読み終えてからの余韻など、様々な魅力を持つ1冊。気になっている方、この記事で興味を持った方は、ぜひ読んでみてください。
この記事では、できる限りネタバレを避けつつ、その魅力を解説していきます。
皆様の読むきっかけになれば嬉しく思います。
『暁星』のあらすじ・概要
| 発売日 | 定価 | 出版社 | ページ数 |
| 2025/11/27 | 1980円 | 双葉社 | 376P |
現役の文部科学大臣が男に刺されて死亡する事件が起きた。
事件が起きた舞台は、全国高校生総合文化祭の式典。
式典の最中に起きた事件の犯人は、その場で取り押さえられました。犯人の名は永瀬暁。永瀬暁はのちに、手記を発表して事件に対する思いを綴りました。そこには新興宗教に対する恨みが…。
なぜ、清水義之でなければいけなかったのか。文壇の大御所作家でもある清水義之は、実はその新興宗教と強い結びつきがあるとされているのです。
そして、式典に参加していた作家は、その衝撃的な事件を小説として描くのです。
物語の中で、ノンフィクションとフィクションの物語が展開され、交錯していく。
「ただ星を守りたかっただけ」という言葉に秘められた真相が、すべて交わった時に姿を現す。
Audible書き下ろし作品
著者自身、音声向けに書き方を変えたわけではないようですが、ご自身の希望で声優さんに読み手を依頼したそうです。
依頼した声優さんは、鬼滅の刃では冨岡義勇、呪術廻戦では夏油傑を担当した櫻井孝宏さん。そして、鬼滅の刃で胡蝶しのぶを担当した早見沙織さんです。
鬼滅の刃や呪術廻戦以外でも、たくさんの声優を務めている。そんなお二人が、この作品の読み手をするというのも今作の魅力の一つです。
『暁星』の魅力を解説
ここからは本書の魅力を深掘りして、
紹介いたします。
実際の事件を想起させる物語
率直に“どう読むべきなんだろう”という迷いや戸惑いを感じる方もいるかもしれません。
その大きな要因の一つが、この物語の入り口になる“とある大きな事件”との関連です。あらすじの時点でどの事件のことを指しているのか分かるかと思います。
大きな出来事だったため、それが入り口のようになっていること自体に戸惑う可能性があります。ところが、読んでいくと“似て非なる世界”が表現されているのです。湊かなえさん自身も、入り口ではあったが、物語は“実際の事件から距離を取るようにして創作した”という趣旨で話されています。
また、湊かなえさんは双葉社(出版社)のインタビューで、ネタバレサイトなどを見ずに楽しんでほしいとも話されています。それだけ、“読めば深く語りたくなる作品”なんです。
私自身も語りたいことは多いけれども、極力語らないように…。でも、迷っている方の背中は押したいという矛盾したような気持ちでこの記事を書いています。笑
この記事を読んで気になった方は、難しく考えずに手に取るべきだと思います。戸惑いや迷い、あるいは興味に対する答えは、実際に読んでこそ分かるのです。
とは言え、もう少し背中を押したいので、『本作の構成のおもしろさ』『改めて考え直したいこと』を本書の魅力として解説していきます。
事実と創作が交差する物語構成のおもしろさ
本書はフィクションとノンフィクションの2つの物語で構成されています。
登場人物2人の視点から見ることで、物語が立体的になっていくという作品はあります。ところが、本書はそれがフィクションとノンフィクションの2視点で構成されています。
本書自体が事実を入り口にして描かれたフィクション作品ですから、さらにその中に「フィクション(創作)」と「ノンフィクション(事実)」の2つの物語が存在するということです。
物語が進んでいくに従い、頭の中で2視点の物語がクロスしていきます。そして、交わるポイントが増えるごとに、断片的だった情報が結びつき、物語の全体像が立体的に浮かび上がってくるのです。
それはまるで錯視のように、同じ絵を見ているはずなのに、ある瞬間からまったく別の像が見えてくるような読書体験でした。
また、情報がどんどん補完されていくことで、物語の理解度が上がっていくんです。結末を迎えるころには、タイトルの意味や帯に書かれたことがどういった意味なのか。本書の様々な要素を読後の余韻として楽しむ時間になります。
何を信じて生きるか。今の時代に読みたい1冊
宗教団体を題材にした作品ですが、読み進めるうちに、今の時代だからこそ改めて考えたくなることが次々と浮かんできました。
人は信じるものに左右されて、自分の人生の舵を切るものです。しかし、時には思わぬ方向へ進んでしまう。そして、その道を信じ込むしかなくなってしまう。
これは宗教に関わらず、自分の信念であったり、固定観念という場合もあります。他人に左右されるだけではなく、「〇〇すべきである」「〇〇であるべき」ということも同じように人を縛ります。他人に影響されている自覚がなくても、気づけば自分自身の考えに囚われてしまうことは少なくありません。
いつの間にか周りの人や環境に影響を受けて出来上がっているんですよね。確かに信じているものに救われたり、支えられることはあります。その反面、行き過ぎると搾取されたり、縋りつくしかなくなったり、自分を苦しめてしまうことにもなりかねません。
その始まりは小さなことかもしれません。なんとなく周囲に合わせていたり、他人の意見に疑問を持つことをしない。そうした日々の積み重ねが、いつの間にか人生を左右する選択へと変わっていく可能性もあります。
他人の意見に対しても、自分の信じていることに対しても、立ち止まって問い直す姿勢を忘れないこと。そんなことを改めて考え直した作品でもあります。
『暁星』の感想
本作は、AIやSNSの進化が著しい現代にもヒントになるような1冊ではないかと思います。私は本作『暁星』を読みながら、そこまで考えが広がっていきました。その大きな要因になったのは、湊かなえさんの「物語の構成」と「宗教を題材にしたこと」にあると思っています。
これが、AIやSNSが進化した現代と非常にリンクしていると思いました。例えば、SNSはよりリアルでありながらも、かなり「創造の世界」になっているなと感じます。フェイク(嘘)だけではなく、“すべてを言う必要はないという世界”でもあります。
それなら、「SNSなんて見なければ良い」と思うかもしれません。しかし、すべてが悪いというあけではありません。だからこそ、世界は本書のように「フィクション」と「ノンフィクション」の両方の視点を持つ方が良いのかもしれません。
現実では出せない自分の姿をSNSであれば表現できることもあります。逆に、SNSで自由に発信していても、現実では意見一つ言うのも躊躇しているかもしれません。
だからこそ、「フィクション(創造)」を活用しながら、「ノンフィクション(事実)」に磨きをかけるような姿勢。そして、世界を事実だけで見るのではなく、創造あるいは想像で、より豊かな視点で見ることも大切なことだと感じました。
もちろん、人を傷つけるようなフェイクには問題があります。物事を立体的に見るには、こうした2視点あるいは、多くの視点が必要だということです。私たちには、自分の生活を楽しみ、世界をもっとおもしろく見ることができるフィクションの視点が不足しているのかもしれません。
だからこそ、私は読書がその重要な役割を持っていると信じています。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

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