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ご覧いただきありがとうございます。
今回ご紹介する一冊は町田そのこさんの
「彼女たちは楽園で遊ぶ」です。
2025年の町田そのこさんは、新境地を次々と開拓されています。
2月には、初のサスペンス作品となる『月とアマリリス』を刊行。そして12月には、ファンタジー小説『ハヤディール戀記(上下巻)』の発売も控えています。
そして、本作で挑戦したジャンルは、なんと“ホラー”です。これまで町田さんの作品に触れてきた読者にとっては、正直驚きの挑戦ではないでしょうか。
この記事では、そんな新たなジャンルへの挑戦がどんな魅力を生んでいるのかも掘り下げていきます。
できる限りネタバレを避けつつ、解説していきますので、皆様の読むきっかけになれば嬉しく思います。
あらすじ・概要
| 発売日 | 定価 | 出版社 | ページ数 |
| 2025/10/21 | 2090円 | 中央公論新社 | 344P |
突然、新興宗教・NI求会により、山に巨大な施設が作られる。そこは大人が『楽園』と定めた場所なのです。
しかし、そこを境に町の空気は少しずつ濁り始めます。
町にはいくつも事件が発生。誰もがその異様な事件に不安を抱き、学校でも恐怖心がさざ波のように広がっていくのです。
そんな中、凜音は喧嘩別れしたままだった親友が、突然退学したことを知ります。
突然、変わっていく町の姿を背景に、凜音は親友を取り戻そうと動き出します。
この町の変貌とNI求会との関係はーそして、”楽園”は本当の楽園なのか。
その真相へと一人の女子高生が踏み出す『ホラー×青春』の物語が誕生。
本書の魅力を解説
ここからは本書の魅力を深掘りして、
紹介いたします。
挑戦が生んだ新境地の魅力
2025年の町田そのこさんは、まさに“挑戦する作家”として新たな魅力を放っています。
本書を紹介するにあたって、まずこの挑戦のことについて触れたいと思います。
これまでも新たな挑戦はあったと思います。ただし、次々と新しいジャンルの小説を書き続けるというのは、大きな驚きでした。
一番の驚きだったのは、ホラーの新境地を開いた今作と言えるのではないでしょうか。個人的にもホラーへの挑戦は正直なところ戸惑いにも似た驚きを隠せませんでした。
読者としては、どうしても作家さんに対して「固定化された期待」を抱いてしまうものだと思います。『今回はどんな作品なんだろう』と毎回楽しみなんですが、今までと全く違った作風だとどうでしょうか。
歓迎する人もいれば、「いつもの町田そのこらしさ」を求める人もいるでしょう。そういう意味では、今作は賛否が生まれる可能性がある作品だと言えます。それはこれまでの作品への思いの強さでもあるわけです。次作はまたいつもの作品を…と、期待する方もいるでしょう。
しかし、次作も初のファンタジー小説を刊行する予定となっています。こうなると、著者の創作活動に“覚悟”と“変革”が起きているのだと確信しました。
つまり、「ちょっと試してみたい」のではなく、「書きたかったものを書くんだ」という強い意思を感じたんです。だからこそ、仮に賛否があったとしても問題がないのではないでしょうか。むしろ、私はこの作品を読んで作家としての“すごさ”を感じました。
この作品には著者の作家としての貪欲な気持ちが宿っていると感じました。
ホラー作品で見せる町田そのこらしさ
ジャンルが変わったとしても、根底にあるものは変わらないものだと思います。これは性格を変えることができないのと同じです。根の部分は変えることができないのです。
ただ、ジャンルが変われば“町田そのこらしさ”が見えにくくなるものです。それでも、本書を読み進めていくと、“らしさ”が見えてくるのです。
著者の作品は“誰しも道を誤る危うさがある”ということを知っています。
そして、どう誤ったとしても立ち直ろうとすれば、“必ず救いの手が差し伸べられる”ということも教えてくれるのです。
暗闇に目を背けることをせず、わずかな光を希望へと変えていく。そんな著者の数々の物語に、たくさんの人の心が助けられたはずです。
今作はホラーでありながら、そういった根底の部分は変わらないのだと感じました。恐怖だけが残る物語ではないんです。
ホラー作品として楽しみながら、読む進めるごとに著者の色が感じ取れる。「町田そのこらしさ」と「ホラー」の掛け合わせが生んだ新しい物語なのです。
町を救うのは宗教か一人の女子高生か
本書は宗教問題を扱いながら、女子高校生の友情も描いています。
一体なぜ、宗教と友情を組み合わせたのだろうと考えました。読んでいて思い浮かんだのは、『救う』というキーワードでした。
主人公の凜音は、喧嘩別れした親友を救おうと奮闘します。一方で、新興宗教・NI求会は、町の人々に”救い”を与えようとする存在です。
しかし、決定的に違うのは、本当に救いたかったものが何かです。そして、最終的に何を守ろうとしたのかが、異なっているのです。
この決定的な違いが、この町に伝わっている禁忌を侵してしまったのです。
その禁忌を侵したことで、本書の物語はホラーと化してしまうのです。著者はそこに“凜音という女子高生”を送り込みました。この町を救うのは、新興宗教・NI求会なのか、それとも一人の女子高生なのか。ぜひ、著者初のホラー小説を凜音の活躍とともに楽しんでください。
本書の感想
作品の真の評価は実際に読んだ自分にしか分からないものです。個人的には、著者が新しいことに挑戦することはありがたいことだなと思います。
そこには読者としても新たな発見があるんです。改めて町田そのこさんの作品に何を求めているのか分かったり、小説家としての別の顔を知ることにもなります。一人の作家さんをより深く知るチャンスを得たような気持ちにもなりました。
2025年の挑戦がこれからどうなっていくのか、ますます楽しみな作家さんだと思っています。
そして、もう一つこの本には驚きがありました。あえて伏せますが、とある作家さんの本が登場します。作中にも出てきますし、唯一の参考文献でもあります。
2冊の物語に関連性があるかと言えば、それほどないかと思います。ただし、まったく関係ないとも断定できないなという不思議な関係性なんです。
この記事を書きながら、この作品には思った以上に様々なことが詰まっているなと、改めて感じました。
ぜひ、2025年の町田そのこさんの挑戦を楽しみましょう。
そして、“新境地三部作”として、下記の作品もおすすめいたします。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
町田そのこさんの『彼女たちは楽園で遊ぶ』はこちらからどうぞ。
■初のサスペンス巨編『月とアマリリス』はこちら。
■初のファンタジー小説『ハヤディール戀記(上下巻)』はこちら
※2025年12月23日発売予定

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