【感想と魅力解説】『ナチュラルボーンチキン』金原ひとみ

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ご覧いただきありがとうございます。

今回ご紹介する一冊は金原ひとみさんの
「ナチュラルボーンチキン」です。

本作は40代の女性が主人公となり、人生のステージが変わった中年層に焦点が当たった作品です。

金原ひとみさん自身、この物語を中年版『君たちはどう生きるか?』だと表現しています。

人生の経験値は積み上げてきているけど、試練はどんどん降り注ぐ。老いを目の前にどう生きるのか考えたくなる物語です。

この記事では、できる限りネタバレを避けつつ、その魅力を解説していきます。

皆様の読むきっかけになれば嬉しく思います。

『ナチュラルボーンチキン』のあらすじ・概要

発売日定価出版社ページ数
2024/10/31760円河出書房新社216P

「ルーティン人生」を送る45歳事務職の浜野文乃(はまのあやの)。

毎日同じ時間に出勤退勤し、同じようなメニューでご飯を済ませる。楽しみと言えばサブスク動画を見ることくらいで、同じ毎日を繰り返す。

つまらない人生なのではなく、彼女にとってはそれで良くて、それが良いのです。

ところが、ホスクラ通いの20代パリピ編集者との出会いが浜野文乃の人生を再び動かします。

「兼松書房」の労務課で勤務する彼女に、ある日上司から指示があります。平木直理(ひらきなおり)という編集者の自宅へ行き、様子を見に行くことになるのです。

彼女は「捻挫で三週間の在宅勤務」を申請している強者…。自宅に行けば、ホストクラブの高額レシートが、そこら中に。

「ルーティン生活」と「パリピ生活」が掛け合わさった時、新しい世界が開く。

『ナチュラルボーンチキン』の魅力を解説

ここからは本書の魅力を深掘りして、
紹介いたします。

金原ひとみ作品の入り口に最適

「金原ひとみ作品が気になっているけれど、どれから読めばいいのか分からない」
そんな方には、本書を最初の一冊としておすすめします。

本書は金原ひとみさんの作品の中では「ライトで読みやすい」という口コミが多いです。

著者の作品は“深い・重い・鋭い”というのが魅力で一度読みだすとその世界観のとりこになります。その中で、本書はテーマ自体が比較的ライトなので、非常に読みやすくなっています。

著者の他の作品で比較すると『ミーツ・ザ・ワールド』は近いものを感じます。ただ、『ミーツ・ザ・ワールド』の方が登場人物が抱える影は濃く、テーマにも重みがあります。

本作を読んだ後に『ミーツ・ザ・ワールド』へ進むというステップ型の読み方がおすすめです。

『ミーツ・ザ・ワールド』の記事はこちらから

【感想と魅力解説】『ミーツ・ザ・ワールド』金原ひとみ
「腐女子」×「キャバ嬢」異なる世界を持つ二人が交差する物語。「私はこの世界から消えなきゃいけない」というライ一言により、腐女子の由嘉里は新たな世界の扉を開くことになります。そして、ライをこの世に繋ぎとめたいと強く願うほどに、由嘉里の内面は変わっていく。

だからと言って、本書が”薄い”あるいは”軽い”という意味ではありません。中年層の主人公が、他人から見れば“つまらない毎日を送っている”けれども、それが主人公の“平穏”な日々なんだ。という物語の入りやすさがあります。

しかし、中年層はただ年齢という時間を積み重ねてきたわけではありません。そこには山あり谷ありの人生があるわけです。浜野文乃の「今の平穏さ」に隠された過去を掘り起こしていくことで、この物語の姿が見えてきます。

しみじみと『そうなっちゃうのも、分かるなぁ』と共感したくなるような感覚がこの作品にはあります。読者の年齢層で言えば、30代・40代の方には、特に刺さる作品なんです。

人生は明るくも暗くも生きていける

本書のおもしろいところは、平穏さを乱す登場人物との出会いです。

ルーティン化された日常というのは、つまらないように見えて案外心地いいものですよね。これは過去の人生から導いた自分なりの「自己防衛の方程式」です。しかし、自分とはまったく違った人との出会い、つまりは異種交流が物語を彩ります。

浜野文乃は平凡な人間だったわけではなく、平凡に生きるために過去を封印したのです。その封印を解く鍵になったのが、パリピ編集者の平木直理です。

日々を仕組み化し、考えたり、他人に期待しない。それはつまり、他人の評価軸の外で生きる決意です。

ところが、平木直理という世界に触れてしまったことで、人生は再び動き出すのです。

この作品に登場する人物は、“人は自分次第で明るくも暗くも生きていける”ということを教えてくれます。世界には暗く生きるための素材が無数にあります。しかし、自ら拾い集める必要はないのです。あなたもぜひ本書を読んで平穏な日々へ、疑問を投げかけてみてはいかがでしょうか。

金原ひとみのモノローグが魅力

金原ひとみさんの文章は、心の迷いや頭の中でグルグルと渦巻いているものが良く表現されています。一言で言えば、モノローグ(独白)が印象的です。

例えば、『〇〇ではないし、〇〇でもないし、そもそも…』というように、自分の心情や考えをたどりながら、自問自答しているような文章なんです。

複雑な内面を掘り下げられた表現力が秀逸で、物語に惹きつけられます。

一文がかなり長かったりすんですが、苦になる文章ではないんです。自然の流れで呼吸をするように、最後まで読めるんです。

むしろ、複雑な内面を簡潔に表そうとすること自体が、不自然なことだよなと感じさせられます。

そして、語彙が豊富ということも魅力の一つです。読んでいて読者が着地しようとした地点よりも、さらに向こう側へ連れて行かれるような感覚になるんです。

だからこそ、“深い・重い・鋭い”といった、心の奥底に届いてくる文章なんです。それが物語の魅力を何倍にもしてくれるんですよね。

特にこれまで読んだことのない方には、その表現力を体感してほしいと思います。

『ナチュラルボーンチキン』を読んだ感想

「何かが起きる人生」「何も起きない人生」はどちらが楽しいのか。

そんなことを読みながら考えることになりました。ただ、人生には何かしら良いことも悪いことも起きます。悪いことが起きれば、平穏な日々がどれだけ価値のあるものか気付きます。

良いことが起きれば、そんな平穏な日々が退屈になるでしょう。つまり、起きる出来事に左右されて、自分の人生を評価しているのかもしれません。

だからこそ、主人公・浜野文乃のように、そこに蓋をしてしまおうとする感覚も良く分かります。もう何も起きないような人生の仕組みにすれば、何も考えなくて済んでしまうということ。

しかし、何が起きても、そこから自分に必要なことだけを受け取れば良い。そういう図太さも生きていく上では必要なんだと思います。

この作品は今の心の状態や読む世代によって感じ方や捉え方が変わってくるんだと思います。今の自分は、この物語をどう受け取るのかを楽しみにしながら読んでみてほしいです。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

金原ひとみさんの『ナチュラルボーンチキン』はこちらからどうぞ。

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