【感想と魅力解説】『アルプス席の母』早見和真【2025本屋大賞2位】

おすすめ本

※当ページのリンクには広告が含まれています。

ご覧いただきありがとうございます。

今回ご紹介する一冊は早見和真さんの
「アルプス席の母」です。

2025年本屋大賞の2位にランクインした作品です。

※できる限り具体的なネタバレを避け、本書の魅力を伝えたいと思います。

あらすじ・概要

発売日定価出版社
2024/3/151870円小学館
ページ数所要時間の目安
354P約6~7時間ほど
※平均的な目安

高校野球を描く本作の主人公は秋山奈々子。

神奈川で看護師をしながら一人息子の航太郎を育ててきました。

航太郎は中学時代に湘南のシニアリーグで活躍し、関東一円からスカウトの目が光る有望株でした。

そんな彼が選んだのは、まだ甲子園の土を踏んだことのない大阪の新興校だったんです。

航太郎と奈々子は覚悟を胸に、大阪での新生活を始めること決意します。

そこで待ち受けるのは並みいる強豪校だけではありません。

不慣れな土地や規律の厳しい父母会。母と子、それぞれの立場で、それぞれの試練に立ち向かっていくんです。

二人の夢への挑戦が今ここにープレイボール。

本書の魅力を解説

ここからは本書の魅力を深掘りして、
紹介いたします。

息子の背中越しに見る、高校野球の熱さ

高校野球小説と聞けば、思い浮かぶのはどんな情景でしょうか。

過酷な練習、熾烈なレギュラー争い、白熱する試合模様。

ただし、そんなシーンが前面に描かれることはありません。

それでも、高校野球の熱さがひしひしと伝わってきます。

『アルプス席の母』は、そのタイトルの通り、母親の視点で描かれた物語です。

グラウンドの中ではなく、スタンドから。球児を見守る父母のまなざしを通して、高校野球の熱とドラマを体感できる小説です。

その熱量と想いを、”裏方”という立場から描き出す著者の表現力に、心を打たれることでしょう。

そして、本作で重要な役割を果たすのが、「父母会」の存在です。

そこには、厳しい掟や暗黙のルールが立ちはだかります。

すべては、甲子園という夢を追う息子たちのため。

高校野球の裏側で繰り広げられる、父母たちの奮闘と葛藤。それらが物語に熱と深みを与えています。

母の揺るぎない愛に共感

本書の共感の源になっているのは、母が息子に注ぐ揺るぎない愛情です。

母親視点の物語だけに、その気持ちに深く共感できる場面が数多く描かれています。

一方で、読者によっては、「子離れしなさい!」と思わず口にしたくなるかもしれません。

それほどまでに、母親のもどかしく切実な想いが、描かれているのです。

子どもの一瞬一瞬が宝物のように思えるからこそ、奈々子の想いがいっそう強く表現されているのです。

航太郎の成長が物語を牽引する

そんな親の想いをよそに、『親の心、子知らず』を体現するかのように、球児たちはたくましく成長していくのです。

特に奈々子の息子、航太郎の姿勢や考えには、感心させられるのです。

航太郎の存在が、本書に清々しく爽快な要素を加えてくれます。

この親子の対比があってこそ、物語の感動はより深まると言っても過言ではありません。

物語が進むにつれて、航太郎の存在はますます大きくなり、いつの間にか彼が物語を力強く引っ張っているようにすら感じたのです。

それとともに、物語は次第に夢に向かって、本気モードへと突入するのです。

感想

物語への没入感や読みやすさを考えると、354ページというボリュームもあっという間に感じられるかもしれません。

実際に所要時間の目安よりも早く読み終えたという方も多いのではないかと思います。

本書は私が想像する典型的な高校野球小説の姿ではありませんでした。

ところが今作は、本来期待する「グラウンドでの熱さ」を別の要素が担ったわけです。

そして、それでも高校野球の”あの熱さ”を感じたい。

著者はそんな期待に応えてくださりました。

そして、母の強い想いと息子の力強さを対比し、スタンドから見る高校野球の感動を体感したのです。

王道の高校野球物語とは異なったアプローチ。

これが、見事に柵越えのホームランを放ったと言えるのではないでしょうか。

大賞作である『カフネ』と並び称されるにふさわしい、2025年本屋大賞を語るうえで欠かせない一冊。

ぜひ、手に取って、この熱さと想いの強さを感じてみてください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました