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ご覧いただきありがとうございます。
今回ご紹介する一冊は一穂ミチさんの「アフター・ユー」です。
本書は、『光のとこにいてね』以来、3年ぶりとなる待望の長編作品です。
今作は、「喪失」を通して描かれる大人の恋愛小説です。とにかく切ない物語が読みたいという方におすすめの1冊。
読みながら感じることだけでなく、読後に広がる余韻にも深く浸ることができる作品です。文学賞の受賞作・候補作を次々と生み出す著者の新たな1冊に注目です。
この記事では、できる限りネタバレを避けつつ、その魅力を解説していきます。
次に読む1冊を探している方の参考になれば嬉しく思います。
『アフターユー』のあらすじ・概要
| 発売日 | 定価 | 出版社 | ページ数 |
| 2025/11/21 | 1980円 | 文藝春秋 | 352P |
タクシー運転手の青吾が仕事から帰ると恋人・多実がいない。
そこから物語はじわりと動き出し、青吾は徐々に焦りを募らせていきます。
そんな中、多実が海難事故に遭い、行方不明になったという知らせが届くのです。
場所は五島列島の遠鹿島。そして、多実は一人ではなく、見知らぬ男性と一緒だったことが分かります。多実の無事を心配しながら、同時に様々な疑念が浮かび上がる。
なぜ、そこに行ったのか。見知らぬ男は誰なのか、どういう関係なのか…。
多くの謎を抱えた時、その男の妻だという沙都子が現れます。同じ立場の二人が、真実を求め五島列島の遠鹿島へと向かうことに…。
それぞれが抱える過去のかけらを拾い集めた時、浮かび上がった真実とは―。
『アフター・ユー』の魅力を解説
ここからは本書の魅力を深掘りして、
紹介いたします。
序盤で違和感を覚えた理由
正直に話すと、序盤は物語に入っていけませんでした。そして、読み終わってからその理由を考えた時に、思わず『なるほど、そういうことか』と納得したことがあります。
そもそも「喪失」をテーマにした物語でありながら、青吾と多実の関係は、どこか希薄に感じられました。
もしその印象のままであれば、何か釈然としないような読後感だったと思います。
これが中盤以降は、なぜ希薄であったのか。あるいは、本当に希薄だったのかという物語への問いかけに姿を変えていきます。青吾や沙都子が真相を探す中で、いつの間にか私自身も前のめりになりながら、物語に「なぜ?」と問いかけていました。
そんな中、途中で“物語を一変するようなある仕掛け”がありました。“ファンタジー要素”と言われている部分なんですが、賛否が分かれるポイントになっています。
個人的にはこれがあったからこそ、物語の展開が大きく変わったと思っています。そして、青吾の内面に火をつけるどころか、序盤で感じた多実との距離感や印象を変えるきっかけにもなるのです。
“「喪失」は物語を通じて、表情を変えていった”と言っても過言ではありません。
序盤から中盤に至るまでの微妙な空気感をグラデーションのように描く力に、一穂ミチさんの筆力を感じました。
切なすぎる恋愛小説
甘い恋よりも“切ない恋愛小説”が読みたいなら、この作品をおすすめします。
物語の結末までが迷路であるなら、どこを進んでも、行き着く先には必ず「切なさ」が待っています。
序盤の「喪失」の印象がどこか現実味のないように感じる。それが中盤以降は、第二の「喪失」とも言えるような切ない展開が待っています。
青吾と多実に希薄さを感じた理由が、どんどん解き明かされていきます。一緒にいる時間は長いのに、お互いに何も知らなかったという現実を突きつけられていきます。
青吾にとっても、多実にとっても、語られてこなかった過去は、自分という人間や人生を形作る上で、避けて通れない核となる部分でした。
読み進めていく中で、読者としても救いを求めたくなる。それなのに、一穂さんは容赦ありません。ずっと胸を締め付けられるような展開で、物語の真の姿を描きます。
だからこそ、読み終えた時の余韻は長く、重い。読んでいる最中よりも、読み終えてからの方が、より深く考えさせられる物語でした。
物語が結末を迎えた時、青吾と沙都子が「喪失」から「再生」へ向かうことを、願わずにはいられません。その瞬間、喪失はまた表情を変え、そこにはかすかな希望の光が感じられるのです。
本当の自分の姿で生きるとは?
『本当の自分の姿で生きていない』
そんなことを感じたことはないでしょうか。これは自分自身のことでも、物語に出てくる登場人物のことでも良いです。
大前提として、この物語を読んで、何をどう感じるのかは読者次第です。私は『本当の自分の姿で生きる』ということについて、考えさせられました。
本当の姿というのは、「思ったことを素直に言う」「心を開く」といったことではありません。自分の根底にあるものを受け入れるということです。
誰しも、他人には言えないようなことを抱えて生きているものです。それを勇気を出して打ち明けたとしても、得られるのは一時的な解放感に過ぎません。
本当に大切なのは、直視したくない自分のすべてを受け入れた上で、どう生きていくかを選ぶこと。他人の目にどう映ろうと、自分がこの世界をどう歩んでいくかに焦点を当てることなのだと思います。
何かに苦しみながらでも、抱えるものがあっても、自分の人生は歩んでいけるのです。
この物語はようやく歩み出したばかりであり、未完の物語だと思うのです。だからこそ、ホールに響き渡る残響のように、読後の余韻に浸る時間を作ってくれました。
『アフター・ユー』の感想
本書『アフター・ユー』を読み終えた時、タイトルの意味が分からなくなりました。
英語では「お先にどうぞ」という意味になるようなのです。ただ、これが誰に対しての言葉なのかによって意味はまったく違ってきます。
そして、単語をそのまま訳すことで『あなたの後』あるいは、『あなたがいない後』と捉えることもできると思いました。
本書は「不在」と「喪失」をテーマにした物語でありながら、“心が突然空っぽになる”と感じる瞬間はありませんでした。
むしろ、感情が一気に失われるのではなく、繊細な心の動きがグラデーションのように移ろっていく。その過程をとても丁寧に描いた物語だと感じます。
だからこそ、読み終えた今もなお、じわじわと物語の解釈や、新しい種類の切なさが浮かび上がってくるのです。それは、静かな水面に広がっていく波紋のような読後感でした。
ぜひ皆さんもタイトルの意味にも注目しながらお楽しみください。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
一穂ミチさんの『アフターユー』はこちらからどうぞ。

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