【感想と魅力解説】『さんかく』千早茜

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ご覧いただきありがとうございます。

今回ご紹介する一冊は千早茜さんの
「さんかく」です。

千早茜さんの作品は、物語の内容だけでなく、文章力や人物の描き方など魅了するポイントが多くあります。

今作は「三角関係未満」というなんとも中途半端な関係を描いた作品です。ところが、一人一人の人間に焦点を当てると、かなり魅力的な人物なんです。

この物語のアンバランスさの中で、「人間ってそういう生き物なのかな」と考えるきっかけにもなりました。

この記事では、できる限りネタバレを避けつつ、その魅力を解説していきます。

皆様の読むきっかけになれば嬉しく思います。

『さんかく』のあらすじ・概要

発売日定価出版社ページ数
2019/10/311650円祥伝社266P

正和は、夕香が暮らす古い京町家でルームシェアをすることになります。

しかし、正和には華という彼女がいたのです。

正和と夕香はただ「食の趣味が合う」というだけ。しかし、正和はこの状況を恋人である華に言い出すことができず…。

一方で、華は食べることより、彼氏の存在より、研究一筋の女性。

そんな三人の関係は三角関係“未満”。しかし、その三角形の中で、男女の心は揺れ動く。

「おいしいね」を分け合える関係。たったそれだけなのか、そんな人と出会ってしまったと言うべきか…。

食を通じて不思議な三人の物語が動き出す。

『さんかく』の魅力を解説

ここからは本書の魅力を深掘りして、
紹介いたします。

感情の天秤が揺れ続ける不安定な恋愛小説

物語がどこへ転んでいくのか、分かりそうで分からない。その“不安定さ”こそが、本書の大きな魅力の一つです。

曖昧な関係で進む物語の多くは、「結局二人はくっつくんでしょ?」と結果が予測できて、それでも読んでしまうものですよね。読み進めるたびに、感情の天秤がわずかに揺れ動き、その度に読者はヤキモキさせられます。

本書は、その天秤の傾き具合が“絶妙”なんです。どっちに転んでもおかしくないし、不安定なのにバランスを保っているというおかしな状況が続きます。

その原因は2つあると感じました。1つは「三角関係”未満”」という極めて曖昧な関係性であること。もう一つは「食を通して結ばれた関係」であることです。

三角関係といえば感情が激しくぶつかり合う展開が浮かびますが、本書の三角関係は恋愛感情が薄く感じるんです。それなのに強く惹かれあっているようにも感じます。

では、何に惹かれているのか。

それは「安心感」「居心地の良さ」といった、人が本能的に求めてしまうものなのだと思います。夕香との生活の中に、それを見出してしまったのです。

夕香の存在が日に日に大きくなっていくのに、それが恋なのかどうかすら分からない。そんな答えの分からない問いこそ、三角関係”未満”の関係性なのです。

千早茜の”一人で物語を背負える”卓越した人物描写

私は本書で登場する女性二人の魅力は、甲乙つけがたいなと感じました。

千早茜さんの作品は、魅力的な女性を描く力に秀でていると感じます。どの作品でも美しさと強さを兼ねそろえた人間的魅力に溢れています。

本書の女性二人に、なぜ甲乙つけがたいと感じるのかというと、それぞれに「本を1冊書けるだけの魅力」があるからです。つまり、二人とも1つの物語を背負うことができる“主役級の存在”なのです。

本書は三角関係未満という曖昧な関係ながら、個々の人物は非常に魅力に溢れているのです。「もっと良い恋ができるはず」「もっと良い人生を送れるはず」と、二人の女性に秘められた可能性を感じてしまいます。

だからこそ、この”三角関係未満”という関係に、もどかしさを感じます。

例えば、恋人の華は研究一筋という女性なんですが、この研究自体がなかなか興味深いんです。別の1冊として楽しみたいくらい気になりました。華の視点で書かれた部分を読んでいる時は、恋愛小説ということを忘れる瞬間でもありました。

この感覚は、まさに華自身の感覚と同期しているようでした。恋愛よりも自分が今やりたいことに、熱量が向いてしまう。その熱量は良い意味で”異常値”であり、たとえ恋人であっても奪われるべきではないと感じるのです。

「奪われるべきではないこと」と、「奪われたくないもの」の間で二人の女性がどのように自分を道を選んでいくのかにも注目なのです。

なぜ人は、安定を捨ててしまうのか

本書は常に「バランスの悪さ」「選択」が鍵になります。

人間は、バランスを崩すことで前進していく生き物なのかもしれません。歩くとき、右足を出せば、重心は一時的に左へと傾きます。前に進むためには、必ず一瞬の不安定さが必要なのです。

華と付き合っている正和にとっても、平穏に暮らす夕香にとっても、わざわざ現状のバランスを崩す必要はなかったはずです。

ところが、「食」という人間の根源的な欲や本能に触れたことで、その均衡は少しずつ崩れていきます。

『人は結局何に惹かれるのか』
『どう生きていきたいのか』

そんな根本的な疑問を浮かべながら、アンバランスな状況の中で見えてくる選択肢に向き合っていくのです。

これは何か失敗したり、上手くいかなかった時にも言えることです。バランスを崩すというのは、前進する準備だと捉えてはどうかと思います。

この物語のそれぞれの登場人物が、この先どういった選択をして、どう人生を歩んでいくのか。最後まで気が抜けない物語でした。

『さんかく』の感想

千早茜さんの本を読むと、なぜか文章の魅力について語りたくなります。

本書でも随所に、気の利いた文章が出てくるんです。それは薬味のように物語の良さを引き出してくれます。そして、文字の情報から物語の世界へと一気に広がりを見せることになります。

そんな文章力に支えられた物語は、読者の想像力を大きく揺さぶります。そして、刻印のように心に残るのです。

本作は「恋愛」「やりたいこと」あるいは、どちらを真の恋人にするべきかという単純な二択の物語ではありません。「人間の本能が求めるものとは何なのか」という問いが、浮かび上がってくる作品でした。

だからこそ、人として魅力のある登場人物が三角関係未満という曖昧な関係を築いてしまう。しかし、アンバランスな関係はいつしか、また本来バランスを取りながら進むはずです。

何に惹かれることが恋なのか。自分はどういった価値観を大切に生きていくのか。そんなことを考えながら読み進めた作品でした。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

千早茜さんの『さんかく』はこちらからどうぞ。

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